第 1章 持続可能な生き方を求めて
−現状の紹介を中心に−


序 文

持続可能という言葉は比較的目新しいと思うが、英語のsustainableに対 応させて用いており、一言でいえば、太陽がある 限り、そのエネルギーに 依存して、豊かな人間生活が出来るような住まい方を追求しようとするものである。このプロジェクトを決意したのは、丁度、1990年 の元旦の計としてであった。公害問題(公害といっていた頃は、まだことは局所的だったが、今や地球規模になってしまった)にも、しばしばかかわっていたの で、ひどくなって行くばかりの環境を見ながら、何故、世の中はこんなにもそれに無関心でいられるのか。何とか具体的な方法を見いだすべく行動せねばならな いと思い始めた。10年を目標にはしたが、まだ完成したわけではなく、持続可能な生活のめどが立った現時点で、15年間の記録として報告したい。しかし、 やりたいことがますます増えて、私一人の手に負えず、多くの人達の協力が必要となり、そのお願いをしたいというのも正直なところである。

私の歳になると、何と言っても強い関心は死後の世界である。一体どの様な世界が待っているのだろうか。何と も言えない不安感があるが、少なくとも、現世 との連続線上にあると思えば恐怖の対象ではなく、むしろどんな所に行けるのだろうかと興味の対象にさえなる。この死後の世界の議論は過去何年も行われ、こ れからも計り知れない時間の中で行われることであろう。そのために、神は偉大なエネルギーの源である太陽と、我々を抱擁する地球、さらには宇宙を与えてく れたに違いない。
何時終わるとも知れないが、人間の最後のこの課題を解くべく、太陽の存在する限り、その思考を繰り返せるこの地球、その環境は是 が非でも守って行かねば ならない。私は、持続可能なライフスタイルの確立を、より広義にとらえて、この様に位置づけている。従って、そこでは太陽エネルギーが唯一、依存できるエ ネルギーであり、それで現在使われている全エネルギーを賄うのに十分であるということ−人類の使っている全エネルギー量は地球に降り 注ぐ太陽 エネルギーの1/15,000といわれる−も知っておかねばならない。言い換えれば、太陽がある限り、我々は存続できるし、最後の課 題を目指 し、それを解くべく協力し合って行くことが出来るのである。
宗教論争を挑むわけではないが、かつての偉大なる宗教者達が築き上げてきた哲学は、今度はそれぞれの個人が求め、各人のもつ創造 性が全て集められ、人類 (あるいは自然)全体で協力し合うことによって、初めてこの最後の課題の答えが得られるのではなかろうか。その意味で信じることを強要するのではなくて、 個人の創造性をかつての偉大な宗教者達が見出したように、深く考える方向から議論を進めるべきであり、そして、それが個人主義−決し て利己主義ではない−としての根底をなすべきであると思っている。
地球は何れ消滅する。太陽のエネルギーが消滅したときに。そしてその時が地球上の生き物の最後である。その時、我々の魂は何処に 行くのだろうか。それは 新しい世界を求めての新しい出発である。その時には、宇宙をさまようのではなく、しっかりとした目標を構築しておきたいものである。この最後の課題は、そ の出発への準備をしていることにもなる。
地球が消滅した時点で、全てが無になると言う考えは、あたかも、カビが有機物に発生し、その有機物のエネルギーを食いつぶして無 くなるのに似ている。人間 はもっと高次な存在の筈だし、それでなければ、生きて行く楽しさも意味もない。
歓喜は神からのインパルスと言われる。次の世界では味わえないであろう肉体と共存するこの世界でのみ得られる歓びである。恋愛も 芸術も音楽も文学も研究 も、全て肉体と共にある。だから限りを尽くしてその歓喜を求め、精神を高めて、次の世界での良い出発とせねばならない。しかし、それは持続可能な生活が確 立されたときにのみ、許され与えられることである。
以下本文で述べることは、多くが工学的−といっても日常的な常識の上に成り立っている& minus;である。従って、ここで 持続可能の意味を述べて、共通基盤の上に立って共に議論を進めたいわけである。

もう一点強調しておきたいことは、これまでの工学はたやすく得られるエネルギーの上に立ち、それを大量に使 いながら築き上げられてきた。しかも多くの環 境汚染を残して。従って、このエネルギーがなくなると(40年で無くなるとも言われている)その多くは意味をなくしてしまうであろう。その意味でも我々は 何年も前に帰り、太陽のエネルギーに依存する持続可能な生き方を求めるための科学を、改めて構築し始めねばならない。すなわち、一度昔に帰って、そこから ポイントを切り替えるのである。この忘れられてきた新しい目標を目指す科学、それを作り上げて行かねばならない。
本文で指摘するように、持続可能を目指す時、身近なところで、さらに科学を必要とする領域が、多く潜んでいることに気付くであろ う。私は元来音響学者で ある。少し建築学、殊に、建築環境工学に足を踏み入れていた程度で、むしろ愚鈍な一人の人間である。その科学的知識の浅さには、失笑を買うところが多々あ ろうが、新しく向かうべき方向があるということを、強調したい故の執筆である。
さらに現実的な側面から説明すれば、自分のために働く−一定の労働さえすれば、自然が多くを助けてくれる −ので あり、他人のためにではない。従って、各人が自由になり、あらゆる権力から解放され、個を確立することが出来る。
これは劇的な生活環境の変化をもたらすが、革命ではない。なぜならそれは権力を意識した言葉であるからである。持続可能のライフ スタイルは、はじめから権 力機構における葛藤のためではなく、自己変革のためにあるからである。

持続可能とは、物理的には太陽のエネルギーが枯渇するまで生きる方法を見いだすことである。そのためには、 自然のエネルギーをもとに、地球を汚すことな く、自然農法に基づく自給自足で質素に生きて行かねばならない。社会組織も奉仕の精神に基づくLowHierarchyによるものでなければならない。そ うすれば、権力を争う戦争は自ずとなくす事が出来よう。
さらに広義にいえば、人間が個として自然の中で生活する場を確立し、そこで創造的な生活を送ることである。その創造性は死後の生 活にも継続されるものであ り、そこへの連続性を見いだす精神活動を発展させねばならない。そうすれば、太陽エネルギーが枯渇しても、さらなる次の空間へと進展してゆけよう。


は じめに

実際地球環境は非常に悪くなっている。幾多の消滅してしまった存在は勿論、温室効 果、以前と異なって変動する毎年の気候、毒性の ある物質の氾濫等など。 こんな現在の様子をすでに150年も前にはっきりと言いきった人がいる。アメリカインデアンの酋長Seattleは、1854年、彼の種族の土地を売って くれ、という時の大統領の要請に応えて、返事を書いている(著者拙訳)。

”この地球は貴重である”

どの様にして、空や、土地の温もりを売ったり買ったりできるのだろうか。その考え方は、我々にとって不可思 議だ。

「全てが神聖である」
地球のどの部分も我民にとっては神聖である。光輝く松の葉、砂浜、暗い森の中のもや、飛び交い、ぶんぶん言っている昆虫、全ての それらは、我が民の記憶と 経験の中にあって神聖なものなのだ。木の中を流れる樹液はインディアン達の思い出を運ぶ。
白人の死者は、星の世界に行ったとき、その生まれた国を忘れてしまう。我々の死者は、決してこの美しい地球を忘れない、なぜなら 地球は我々の母だからだ。
我々は地球の一部であり、地球も我々の一部なのだ。
香り高い花は、我々の姉妹であり、鹿や馬、大きな鷹、それらは我々の兄弟なのだ。
岩っぽい山頂、牧場のつゆ、小馬の温もり、そして人間−それら全て同じ家族に属している。

「簡単じゃない」
だからワシントンの大酋長(大統領)が、我々の土地を買いたい、と手紙を寄せたとき、何と過大なことを我々に要求してくるのかと 思った。大酋長は、我々を 一つ所に保護して、我々自身が快適に住めるようにしてやろうという。
彼は我々の父になり、我々は彼の子供になる。だから、我々の土地を買いたい、という彼の申し入れを考えてみなければならない。
しかし、これはたやすいことではない。というのはこの土地は我々にとって神聖だからである。
全てのせせらぎや川を流れる光輝く水は、ただの水ではなく、我々の先祖の血なのである。
もし、我々があなたに土地を売るときは、これは神聖なものだということを忘れないでほしい。そして、あなたの子供たちにも、この 土地は神聖で、湖の清水に 影のように写るどの反射も、我が民の生活の出来事と思い出を話しているのだと教えてほしい。
水のつぶやきは、私の親父のそのまた親父の声なのだ。

「親切さ」
川は我々の兄弟であり、喉の渇きを潤してくれる。川は我々のカヌーを運び、我々の子供を育ててくれる。もし、我々があなたに我々 の土地を売るとすれば、 川は我々の兄弟であり、あなたのものであるということを、覚えておかなければならないし、あなたの子供に教えなければなりません、そして、これからは、あ なたがどの兄弟にも与える親切を、川にも与えてやらねばなりません。
白人は、我々のやり方が理解できないことを、我々は知っている。土地の一区分は、彼にとって次の区分と同じなのだ、というのも、 彼は夜やってくる他人者 で、彼の必要とするものは何でもこの土地からとってゆく。
この地球は彼には兄弟ではなく、彼の敵なのだ、そして彼がその土地を征服すると、また移動し続ける。
白人は、彼のお父さんの墓を背後におきさり、気にも留めない。彼は、地球を子供たちから人質に取り上げ、そして気にも留めない。
彼の父親の墓や、子供の生まれてくる権利を忘れてしまっている。彼は彼の母である地球を、また、兄弟である空を、羊やきれいな ビーダマを買ったり、盗んだ り、売ったりするものであるかのように扱う。
彼の食欲はこの地球をむさぼり食ってしまうだろう、そして、後には砂漠だけを残して行く。
私には解らない。我々のやり方は、あなた方のやり方とは異なっている。
あなたがたの町の光景は、我々の目を痛めつける。しかし、おそらくそれは我々が野蛮人で、理解できない故であろう。白人の町には 静かな場所がどこにもな い。春、木の芽がぽんと開くときの音を聞いたり、昆虫のはねが擦り合う音が聴こえる場所はどこにもない。
しかし、おそらくこれは私が野蛮人で、理解できないからであろう。
がちゃがちゃという音のみが耳を傷つけるように思える。そして、もし人間が夜鷹の寂しげな鳴き声や、夜、池の周りの蛙たちの議論 が聞こえなくなれば、暮し にとって一体何があるというのだろう。私はインディアンで、理解することができない。
インディアンは、池の表面をわたる風の柔らかい音や、日中の雨で洗われた風、あるいはピニョン松の匂いのする風そのものの匂いが 好きだ。

「貴重なもの」
空気はインディアンにとって貴重なものである、というのは全てのものが同じ呼気を共有しているからだ−獣、 木、人、みんなが同じ呼気 を分けあっている。
白人は、彼の吸っている空気のことに、気を留めていないようだ。何日間も死んだ人間のような、嫌な臭いに無感覚だ。しかし、も し、我々があなたに我々の 土地を売るならば、あなたは、空気は我々にとって貴重なものであり、空気はその精神を支える全ての生き物と分かちあっていることを覚えていなければならな い。私たちのおじいさんに、最初の呼吸を与えた風は、彼の最後のため息も受け止めてくれる。
そして、もし、私たちがあなたに我々の土地を売るならば、白人ですら、牧場の花でよい香りになった風を、味わいに行けるような場 所として、それを別に離し て神聖に保っておかねばならない。

「一つの条件」
それでは、我々の土地を買いたい、というあなたの申し入れを、受け入れる決意をするかどうか考えてみましょう。私は一つの条件を 出しましょう。白人は、こ の土地の野獣たちを、彼の兄弟として扱わねばなりません。
私は野蛮人なので、そのほかのやり方が解かりません。
私は、かつて、走り行く列車から撃った白人の残した、幾千もの死んで行くバッファローを、大草原に見たことがあります。私は野蛮 人なので、どうして煙を吐 く鉄の馬が、我々が生きて行くためだけに殺すバッファローより大切なのか理解できません。
野獣なしでの人間とは、一体何なのでしょうか。もし、全ての野獣がいなくなったとすれば、人間は心の寂しさが募って、死ぬのでは ないでしょうか。
野獣たちに起こることは、すぐ人間にも起こります。全てのものは結ばれているのです。

「なきがら」
あなた方は、あなたたちの子供に、足元の大地はあなた方のおじいさんのなきがらであることを、教えなければなりません。そうする と、彼らは大地を敬うで しょう。あなた方の子供に、地球は我々の血縁の命で満ち満ちていることを教えてください。
あなた方の子供にも、我々が我々の子供に教えてきたこと、地球は我々の母であることを教えてください。
なんであれ、地球に良くないことが起これば、地球の子孫にも起こる、人が大地に唾を吐けば、彼ら自身に唾を吐いていることにな る。
このことははっきりしている。地球は人に属すのではなく、人が地球に属しているのだ。このことはよく分かっている。
全ての物事は、一つの家庭を結び付ける血のように結ばれている。全ては結ばれているのだ。
地球に良くないことが起これば、すべて地球の子孫にも起こる。人は生活の蜘蛛の巣を織りはしなかった、人は蜘蛛の巣の中の一本の より糸でしかないのだ。人 がこの蜘蛛の巣に何かをすれば、人自身にも何かが起こる。
白人の神が、白人に友達から友達のように歩み寄り話しかける、そのような神を持つ白人でさえ、共通した運命からは逃れられない。
我々は結局兄弟なのだ。
見てみましょう(きっと解るでしょう)。
私たちは一つのことを知っている、それは白人も、ある日見いだすであろうが、我々の神は同じ神なのだ。
あなたたちは、現在あなたの神を、私たちの土地を所有したく思うように、所有しているでしょう、しかし、それはできません。彼は 人の神であり、彼の哀れみ はインディアンにも白人にも同等だからです。
神にとってもこの地球は貴重なものです。そして地球を傷つけることは、その創造者に侮辱を重ねて行くことになります。
白人全てが消滅せざるを得ません。おそらく、他の全ての種族よりも早く。あなたの寝所を汚してみなさい、そうすれば、ある夜、あ なたは自分のごみで窒息 するでしょう。しかし、あなたをこの土地につれてきて、何か特別な目的のために、この地やインディアンを支配させた神の強さに照らされて、あなたの滅亡の 時には明るく輝くことでしょう。
この運命は我々にとって一つの計り知れないものです。と言うのは、いつバッファローが殺され、野性馬が家畜化され、森の神聖な コーナーが人間の重苦しい臭 いに満ち、実り豊かな丘の景観が電話線でしみをつけられるのかが、解らないからです。
あのしげみは何処にあるのか? なくなってしまった。
あの鷹は何処にいるのか? いなくなってしまった。
生きることの終わりであり、生き残ることの始まりである。

彼は、すでに現状をあの当時から看破しており、「生きる」時代ではなく、「生き残る」時代になったと結んで いる。食品添加物に気を使い、水道の水にも フィルターを付け、生き延びようとしている様子は、まさにその通りだ。学生達には毎年講義のはじめにこの手紙を読ませ、60歳で辞職するまで、それを続け た。その時には左手にミネラルウオーター、背中に新鮮空気のボンベを背負って過ごす毎日が待っているとも言った。
不思議なものだ。いもの茎を食べながら幼児期を切り抜け、激しい高度成長を経験し、今やこの物質文明の真只中にありながら、今を 幸せと思えず、昔の環境 が懐かしいのは一体どういうわけだろうか。トンボやキリギリスを追いかけた野原の草の匂い、浜辺で魚釣りや水泳を楽しんだきれいな海、あの時代に、こよな く豊かさを感じるのはシアトル酋長だけではない。自然の説得力は偉大なものだ。キャンパスに大きなビルが建つにつれ、早く周りの木が大きくなってくれない かと願う気持ちも、これによく似ていると思う。夏はうちわ、良くて扇風機、冬は厚着をして火鉢にあたるのが普通の生活であった。盆踊りから帰ってきた後、 井戸からあげた冷えたすいかを食べ、蚊帳をかき分けて夜の冷気のもとで熟睡し、日中の疲れをとる。未だにほのかな思い出をかもし出してくれる。しかし、誰 がこれを奪ってしまったのであろうか。どうしてこんなにも変わってしまったのだろうか。シアトル酋長の言うように、我々には、誰が、何処で、どの様にこう してしまったのかが全く解らなくなっている。

シアトル酋長は、人間の造り出そうとする物質文明やテクノロジを、既にあの当時から強く批判し、それらによ る今日の公害と地球の汚染を予測している。素 晴らしい洞察力である。自然と共に生きる人達のみが感じ得る、テクノロジへの危惧であった。自然との接点を持ち、それを感じられる人のみによって、初めて 地球は守り得るのであろうか。
さて、わが国における建築学は、これまで一体どの様に社会に貢献してきたのだろうか。高層ビルは一見華やかな様子を見せるが、一 方各人の住む住宅はどう であろうか。筆者は多くの国を旅したが、日本ほど貧困な住宅事情は他に類を見ない。安価に作り、貧困なデザイン、劣悪な施工。その中に電気器具、空調シス テムをいれ、一見豊かそうに見えても、緑もなく、空間自体は貧困そのものである。その豊かさも、化石エネルギーの消滅で貧民窟と化すであろう。また高層ビ ルの中では、殆どは”新建材”に囲まれ、空調システムやエレベータ等、エネルギー消費を前提にした設計だから、 安価な化石エネル ギーの消滅で、一定以上の階は廃虚と化そう。狭いとは言え、国土のたった4%に押し込められ、安易な利便性のみを求めすぎた結果である。
建物はどれもこれもが似たような”新建材”と称する材料を使用する。安く、1つでも特 徴を出せれば簡単に市場を 占有でき、有害 で、地球と馴染まなくても、北は北海道から沖縄まで、一斉に使い出す。1990年11月ニュージーランドで” EarthBuilding(土 の建築)”に関する小規模な国際会議があった。アドベ(adobe)という日干し煉瓦や、土の建築にご執心な、いや、少し狂信的な面 々を主と した熱心な自然を愛する人々の集まりであった。地球に優しい建築材料は何かと云うのも大きなテーマであった。"新建材"が 健康に悪いことも詳しく述べられた。エクアドル、トルコ、ニュージーランド等のアドベ建築の地震による被害等も報告された。環境計画の話をするつもりで あったが、「日本の土壁について」を是非にと言う依頼に、にわか勉強し、木舞によって度重なる地震に耐えてきた歴史的事実、土壁に空気層を介して得られる 断熱性と、本来持つ熱容量とで素晴らしい建築素材になることなどを述べた。さらに、熱帯、寒冷地に共通して使われている草葺屋根も紹介した。今一度、日本 古来の壁や屋根に限らず、ヴァナキュラな建築、すなわち、各地に育った素材や施工法を、近代的な解析を通して見直してみるべきであろう。地球に優しい建築 材料とは何かを“さがす”(日本建築学会建築雑誌編集委員会から与えられたテーマであり、Vol.106, No.1313,1991年5月号参照)必要がある。以下その時の原稿を一部修正して再録しておく。
都市内のエネルギー消費量と、気温上昇の相関は実に明白である。ことに大阪のそれは排熱とコンクリートへの蓄熱でヒートアイラン ドをつくっている。子供 の頃、夏、地下鉄に乗る時には、涼しい所に行けると思ったが、現在はどうだろう。駅に空調機を入れガンガンまわしているのはこれを物語っていよう。工場、 自動車、電車、飛行機、オフィスビルそして家庭生活、一体これらがどのような比率でエネルギーを消費しているのかは定かではないが、家庭生活によるものも 決して少なくはないであろう。建築環境工学がこの領域で果たすべき役割が大きくなったと思う。
3次元空間の音の場、熱の場、光の場が解けてきたのは、有益でありがたいことだ。これらの物理量に対して、設計計画と直結する評 価関数を見つけて行かな ければならない。我々は、これらの異質な環境要因に対して、不快性尺度を共通な尺度として与え、それらを総合的に評価する手法を提案(第5章 付録参照)しているが、それによると、温熱環境が、ことに夏季には、傑出して室内環境に影響することが示された。そこで、自然環境と整合する方法で、快適 な熱環境はできないものであろうか、と考え始めたわけである。すなわち、夏、暑ければ暑いほど涼しく、冬、寒ければ寒いほど暖かいという、都合のよい関係 を見いだせないであろうか。
ここに、我々が“さがそう”としているのは、地中熱を基準にそのような環境を具現する 試みである。周知のごと く、普通の熱伝導 率をもつ地面では、約8メータ掘り下げると地上の空気の年間平均温度(恒温層)を示す。これをくみ上げることができれば、夏涼しく、冬暖かいわけである。 夏、太陽収熱によって浮力をつくり、化石エネルギを使わない、これを我々は行おうとするわけである。8メータは無理としても4メータ位にクールチューブを 埋め、地下室へ導くのはそう困難ではない。それを介して室内へ空気を取り込む。冬は風車発電や太陽収熱、堆肥の発酵熱などの希薄エネルギーをかき集め、地 中熱に上積みをする。現在、小規模な実験を基にした机上計算では、夏、外気温34度で室内26度、冬、外気温0度で室内12度 となった。これを実験住宅で試すわけである。この住宅では、屋根には草葺、茅葺、木肌葺の一つあるいはそれらを組み合わせて用い、土壁も西側の壁に用い て、収熱や浮力の補助に用いたい。さらには、雨水の利用、トイレ処理の仕方、木々の熱環境への寄与等も取り上げ、地球に自然に帰って行く建築材料を用いた 住宅を目指そうと、夢はふくらんでいる。
これらは学生を中心に、住宅を具体的に造って、さわって、その善し悪しを具体的に議論する設備にして行きたい。流し台の寸法、階 段の蹴上げ、踏面、手す りの高さなど資料集成が決めるものではない。施工法の研究、デザインの研究等も実際の住宅をさわってみて初めておこないえるのではないだろうか。
同様な議論は、過去日本でも数多くみられる。が、残念なことに、安価な化石エネルギーに基盤を置いた日本の現状は、このまま行き 着くところまで行かない と、この種の議論へ戻って、それを充実させ、育てていけないのが現実である。幸い、ニュ−ジーランドの多くの知己とは通じ合うものが あり、彼 の国からメッセージとして結果を持ち帰りたい。土地や物価が安いこと、国際交流に寄与が出来ること、時差の少ないこと等も、この地を選んだ理由である。
日本の地盤には育ちそうもない別の理由も考えてみる必要がある。どうも良い住宅(社会の最も基本単位である1家族を収容する1戸 建て住宅)を求める研 究、教育の場がなおざりにされ、それに向かった具体性は見あたらない。例えば、大学のカリキュラムを見ても、大量生産される建築材料を使った大規模な建築 のみを目指しているような感がある。その大きな原因は、現在の建築学科の講座構成が少し構造学に比重をかけすぎているからではないだろうか。オークランド 大学では、20人近いスタッフの内、構造学を専門にするのは1人に過ぎない。それも講義には模型を造って説明し、偏った理屈だけの教育ではない。環境工学 では音、熱、光に5名 揃えている。他は計画系である。わが国においては、構造学の研究の発展過程で種々の方法論や境界条件によって、分離を重ね、発展を遂げてきたのである が、現在一定の爛熟期にきていると思われ、構造学としてではなく、建築学に求められる構造学とは何かを考えてゆかねばならないと思う。構造学は建築計画の 一要因に過ぎないからである。けだし、建築学もここにきて改めて進むべき道を“さがさ”なければならないと思 う。
そして、もっと良いストックとなりうる住宅の設計計画に重きを移すべきだ。吉田首相は“住宅よりも工場を ”、ド イツのアデナウ ア首相は“工場よりも住宅を”と、第2次大戦後の荒廃した世の中を勇気づけてきたという。数年に一度訪ねている 30年来のドイツ の友人の住居は、たえず私のより10年は進んでいた。今では私には土地が買えないから、これ以上比較することはできないが。
何れにしても、日本の建築学の将来が、地球の終わりを“さがす”ことにならないように したいものだ。

安易に得られて廉価な石油エネルギーは、貪欲な人間の標的となり、その大量使用は、地球温暖化は勿論、様々 な人間社会への弊害を作っている。そのどん欲 な経済行為は、再分解不可能な、有毒な化学物質、生産過程から排出される有毒な重金属、放射性廃棄物の蓄積、抗菌性の出来た病原菌、オゾン層の破壊物質な ど、様々な結果を作っている。その石油も40年もすれば枯渇すると言われている。そのいき着く先は、退廃と破壊であることは明白である。
雪が降れば雪囲い、日射が強ければよしず張り。少しの手間で長期間快適になる。快適性を求めることだけを考えてはならない。幅広 い季節の変化から、生きる ための免疫力を培っているということを忘れてはならない。そして、季節の楽しみを味わう喜びを忘れてはならない。
化石エネルギーが汚染のみを残して、枯渇することは明らかに分かっている。建設時の消費エネルギーが大きなビルを建て続け、その 後、そこでは毎日莫大な量 のエネルギーを使い続けている。そのことについて何等議論がまき起こらない。エネルギーの枯渇は、開発途上国が同様にエネルギーを使いだした現在、その日 は突然やってこよう。その時はきっと大きな混乱に落とし込まれよう。他人の責任に課そうと、口汚くののしり合う様子が想像できる。その時すでに失われた生 存への免疫力はさらに弱まり、人間の価値観はどんどん低落し、差別も益々強くなってこよう。
このような現状を許してしまう今の社会体制は、どの様に手を付けて改革して行くべきか、その手法は見あたらない。あまりにも他人 に依存し、利用しあう社 会を断ち切って、持続可能な生活様式を確立することから始めなければならないと私は思う。自分が、個人が初めて解放される、その様な原点が必要だ。誰かが 新しいエネルギーを見出してくれようと言う考えもあるが、退廃的思考の延長線上にあるにすぎない。同時に、それが実現しても現状と同じく、社会構造からの 大きな拘束を受けることに変わりはない。自然との接点がどれほど素晴らしかを思い起こし、そこからの再出発を原点にする必要がある。
その議論を 発展させてゆく過程では、定性的な議論ではなく数量で表して主張して説得して行かないと、経済力に押し流されて、不毛の議論になってしまおう。丁寧な測 定、分析をし、そのシミュレーションを行い、定量的議論をしっかりしておく。しかし、それらの結果はあくまでもシミュレーションであり、生活計画にあたっ ては十分それを認識したうえで、それを用いて豊かな自然と共存するべく計画する楽しみははかり知れない。

何といっても、このどん欲さを否定しない限り、すなわち質素な生活に戻らない限り、持続可能な生活を構築す ることは出来ないであろう。そのためにも、人 間の生きる意味を今こそ真剣に考えねばならない。このことは、決して、単に現状を否定的に見つめて、この提案をしようとしているのではない。太陽エネル ギーに依存する持続可能な生活に基づけば、LowHierarchyのもと、個人が解放され、権力機構のなくなった、自然に囲まれた人間らしい平和な楽し い生活が保障されることを、むしろ対比的に言おうとしたわけである。自然と接点を持っていると、一つ一つの努力がすぐ報われるのは明らかである。

15,000倍のエネルギーがあるとはいえ、素晴らしい歓びを与えてくれる空間と分け合って使用すべ きである。鳥や魚や獣、花や木や草、風や海や川、大きな自然を維持するためにも使われている、という意味だ。歓喜は神からのインパルスといわれる。その神 の創っている空間の存在と、維持は絶対的だ。そこに質素に生きるという概念が生まれる(15,000倍分を全部人間が使って、贅を尽くす方向への展開は戒 めておかねばならない。むしろ、15,000倍もが地球を構成しているという偉大さを感じるべきだろう)。ここでは、我々は1/15,000しか使ってい ないという現状から、偉大なる自然は持続可能が十分実現できると勇気を与えてくれているのだと、解釈しようではないか。
持続可能の実現において、太陽がある限り生きて行けるという表現は、物質主義の源であり、根元だとも言える。それを乗り越え精神 的発展を得なければならな い。それは次の空間への発展的展開のことである。
その事実を我々の世代は勿論、次の世代をも含めてよく理解し、その方向を目指した教育、研究が必要である。子供の頃に身についた ものは、大きくなってか ら得ようとするのとは違って、自然であり、何ら苦にならない。もし、多くの続く世代が、持続可能な生活を目指してくれれば、より早く目指すところに到達し よう。
そして、過渡的であるにせよ、Reuse、Recycleの 社会機構を構築し、限りある資源を上手に使用せねばならない。混ぜればごみそのもの、分ければ貴重な再資源となる。日本でプラスチックの分類を始めている のはよい事だ。ただ、これが再生という過程に結ばれるとさらによいのだが、例えば、後述する尾関式浄化槽などが、その様な材料で作られると耐用年数がはる かに鉄製よりは長くなろう。この領域の努力を大いに鼓舞したい。
人口問題も大切である。持続可能に生活するにはどれくらいの面積が必要か、それを求めてグローバルな、そしてしっかりした根拠の あるコンセンサスが必要 だ。それを得るためにも、1家 族に必要な最小限の土地の面積を算出せねばならない。これも、大きなこのプロジェクトの項目だ。もっともっと必要だと思う不安感を払拭し、これだけあれば 大丈夫というレベルを見いだしたい。例えば、雑木は沢山必要だと思い、その収集にあくせくせずに、その下限を見いだし、それを備えれば安心できる様にした い。
そして、通信機構(InternetやEmail)を利用し、お互いの情報や知識を交換し、人間性の高揚をはかるシステムも必要 だ。我々も Homepageを掲載している。是非見て欲しい。URLは、http://www.ecohouse.co.nz 検索機関には載せていなかったが、目 ざとく見つけた当地の機関が我々のURLを最近載せたこともあって、日本やNZの内外を問わず、多くの問い合わせが来るようになった。また、数人からリン クさせてくれという話も受けた。この様に自然発生的に情報や知識を分け合って行くことは是非必要である。
    私一人ぐらいやっても、大した影響はない。
    これくらいは、大したことではない。
    そんなこと言っていると、食べるものがなくなるよ。
    もうすでに遅い。
    誰かがなんとかしてくれるから、何とかなるさ。
    最近では、みんなこんなもんですよ。
よく聞くセリフだ。これらの先に何があるのだろうか。戒めておきたい。


こ のプロジェクトを始めた動機

突然降って沸いたわけではない。素晴らしく響くホールを設計するだけでなく、不快 な騒音について、それを除去する騒音防止も専門 分野(建築音響学)での大 きな領域だった。伊丹空港の、午後9時 以降飛行さし止めを求めるための騒音測定や、社会調査にも携わり(関空が出来た後の同空港存続は残念である)、金属バットの消音にも深くかかわってきた。 騒音問題を通じて、空気汚染、水質汚染などの他の公害問題ともかかわってきた。さらに、室内環境の音、熱、光の3要因の総合評価を議論していると、騒音環 境や光環境よりは、熱環境が傑出して不快性尺度上重みをおいて評価していることが分かり(夏、騒音の大きな環境でも、窓を開けて外気を取り入れようとす る)、エネルギー問題を避けて通れないことが分かっていた。その様な背景の中で、持続可能を目指した住宅計画をするべく、復帰直後の沖縄にゼミの家を作る 計画も考えたり、大学の同窓生にも働きかけたりしたが、結局は、実現せずじまいになっていた。
音響学を通じて、当地で多くの友人に巡り会い、すばらしい人達に恵まれたこと、土地が安く手に入り、人件費や材料費が妥当であっ たこと、延べ30人程の学 生−著者は60歳になるまでの28年間、大阪の私立大学に勤めていた−を 連れてきたが、国際化への一助にもなると考えたこと、現在の大学における建築学の教育は、大規模建築、言うなればエネルギーの垂れ流しを前提にした建築へ の教育を主体にしている。具体的に住宅すら建てたことのない人々が、建築学を教えている。私もその一人だったが。したがって、大規模建築がほぼ飽和して、 もう新たに必要でないことも知らないし、知っても新しい方向に舵取りは出来ない。Hanover万博(2000年)開催準備のためのワークショップに招か れた時に会ったアメリカの大きな建築事務所の所員が、かの地では、すでに建物は飽和しているといっていた。
現在緊急に必要なのは、また、社会に与えなければならないのは、若い世代の中で将来の地球環境を真剣に考えていく若者を吸収し て、具体的な実践の場を与 え、研究させる空間の提供だ。この様な現場で具体的に体験することが出来ない日本の現状で、彼らにとってもよい経験になるであろうと思った。
教えるだけの大学校はInternetで十分だ。しかし研究の場は必要で、人間社会全体をUniversityに する様なコンセンサスが必要と思う。大きな高価な機械を作ったり、購入したりすれば、そこに自由に創造性を持つ人間が出かけてゆける、そんな自然な流れが 必要だ。大きな設備、最先端の技術による大規模な設備は、使用についても公開されねばならぬ。資本の占有を許すと、人間までそこに拘束される。そこへの自 由な出入りが、各人の持つ創造性を結集し、大きく創造性のある発展を成し遂げよう。

結局、過去の公害問題はいっさい解決されていない。ミナマタ、四日市、森永砒素事件、等など、未だに歪んだ 形で存続しており、闇に葬り去られている。
あの希少動 物、植物達が持つ繊細で豊かな美しさ、それが永遠に失われて行くことに何も感じなくなってしまっている。ゆっくりとお互いがふれ合う前に、もう彼らは帰っ てこないのだ。たましいの世界の何処へ押しやってしまったのだろうか。我々がこれをなしたのは明らかだ。カラス、雀、ハチなど、あまり歓迎されないものば かりがはばかる。コンクリートのビル、機能のみを持つ工場、醜いものばかりがはばかる。みにくい人間のみがはばをきかせている。感性の世界も砂漠化した。


Kaiwaka 村(以下KW)での実験住宅プロジェクト

この様な発想から、先ず次のような具体的な目標を掲げ、その作業に追われていると ころである。
(1)自然からのエネルギーを集め、それにより生活する。
(2)その地に育つ、また存在するもので建物を建てる。
(3)住宅から汚れたものを出さない。
(4)有機農法による自給自足を行う。
(5)歓喜のある生活
順次、現状や今後の予定について触れて行く。


(1) 自然からのエネルギー取得

1& minus;1)住宅計画各論
地球上に1年間に降り注ぐ太陽エネルギーは、1.21x1017ワット時。地球のエネルギー消費総量の15,000倍に相当す る。日本でみても、陸地だ けで、日本のエネルギー消費総量の100倍。200海里の海まで含めると、その1,000倍の太陽エネルギーが降り注いでいる。例えば、植物の光合成効率 に対応する5%の変換効率で、世界主要6砂漠の総面積の10%を覆えば、2020年の世界の予想エネルギー消費量を賄える、ともいわれる。(堀米孝:科学 朝日1991年3月号p16)
太陽に依存したエネルギーを持続的に利用できれば、持続可能なライフスタイルの確立は明白だ。以下、実験住宅における太陽エネル ギーの直接的、間接的利用 の種々な試みについて述べる。

1− 1−1)尾関式浄化槽によるバイ オガス化
何と言ってもそのエネルギーの1番手は、尾関式浄化槽によるバイオガス化だ。実際、発生量はそんなに多くないが、我々の排泄物を 完全にガス化して、下水道 という大きなInfrastructureを不要にしてしまう。その意味で、大きなエネルギーの節約になる。
一宮の鉄工所を営む尾関浩章さんを知ったのは、NHKテレビの番組で、彼の浄化槽を見たときだ。これは有益で面白いと思って、先 ず学生を派遣し、後に自 分も訪ねた。尾関さんの知識は幅広く、一言では表現しにくいが、発明発見三昧の人とでも云えようか。残念ながら1999年3月3日亡くなられた。
彼の浄化槽を作った理屈を聞いたときは、非常に説得力があった。「櫻井先生、腐りうる有機物を見てご覧なさい。どんなものでも屋 外にほっておくと、少な くとも125日以内に消滅します。だから私のタンクでは、ゆっくりと反応を進めています。」しかし、恐らくアカデミックといわれる学会社会では、この様な 表現は、論文としては受け入れられないであろう。
早速、当地NZ、Warkworthの鉄工所を訪ねて尾関式浄化槽を作ってもらい、彼の指導に従って 施工すると、難なくガスが出始めた。彼に是非論文にして、後世の人達に残すべきだと説得したところ、大学に所属していた私達との連名ならば、と希望され、 太陽エネルギー学会の技術サロンという項に投稿することになった。何回かお宅におじゃまし、直接種々教えてもらいながら、私が原稿を書き、修正訂正の チェックを受けて雑誌に載ることになった。その文献をこの項の末尾に記した。そこに作り方や使い方までさらなる詳細が書いてあるので参照されたい。ここで は抜粋した説明にとどめ、我々のKWの実験住宅での経験を、さらに加えて書いておく。
NZでも、大量の動物の排泄物で汚染されている近海の浄化に役立つとともに、温室効果に加担するそれらからのガスもうまく利用、 処理できればと期待してい る。

人間の排泄物や生ゴミ(残飯、残菜)、さらには畜産業の排泄物は、多くの場合、下水道を通じて、また、輸送 によって集められ、焼却されるか、河川に放流 される。前者においては膨大なエネルギーを必要とすると共に、多量の炭酸ガスを発生する。後者においては、富栄養化を生じ、河川の自浄作用を抑制してし まっている。これらの点は、現在、緊急に解決されるべき環境問題と関連して、速やかに解決する必要がある。
地球環境を守るためには、持続可能な生活態度を求めてゆくことが大切だと考えられる。そこでは、太陽エネルギーが唯一のエネル ギー源である。それを基 に、自然に対する人間の行為が、自然のバランスをくずさず、系を閉じる必要がある。すなわち、汚染はきれいにして地球に負荷をかけてはならない。光合成を 介して得られる農産物を食して、生きるためのエネルギーとして取り込み、排泄物を生じる過程は、この太陽エネルギーを収集して用いていることに他ならな い。この過程も地球に負荷をかけないで、持続可能の系として閉じられることが大切であろう。
ここでは、種々の排泄される有機物(腐るものなら何でもよい)を、排泄される源において収容し、それら全てをバイオガス化する、 簡単に作れて、その維持も 容易である−正しく使用されねばならないが−浄化槽について述べる。

A)バイオガス化の過程
バイオガス化の過程は、2段階の発酵で行われる。第一段階は、酸性発酵、すなわち液化過程である。先ず、通性嫌気性菌により、複 雑な有機物が可溶性で分子 量の小さな物質に分解される。さらに、偏性嫌気性菌により低級脂肪酸に分解される。第2段階は、ガス化の
過程であり、低級脂肪酸がメタン細菌の力によって、メタンや炭酸ガス(ここでは、これらをひっくるめてバイオガスと呼ぶ)へと変 換される。これらの反応過 程を人体内での変化にもなぞらえて図1-1-1に示す。



図1 -1-1 バイオガス発生の原理

これらの菌の活動は、これまで一般的に最適温度が、30〜40℃の中温度域とされ ていて、浄化槽はその温度まで温められるのが普 通であった。それに対 し、この浄化槽では、15〜25℃と低温度域でバイオガス化を生じさせる事が出来る。したがって、これまでの既成概念でのメタン菌の活動温度範囲と、この 浄化槽のそれとは異なるので、この槽内のメタン菌を低温メタン菌と呼ぶ。この浄化槽は、普通、地中に埋設されるが、外気温が−20℃ でもバイ オガス化が行われたと云う報告もある。これは、これらの菌が寒さに対し耐性を持つことにより、バイオガス化が行われたと考えられる。この発見は、浄化槽を 温めるという複雑な作業やエネルギーの損失を不要にする。考えてみると、あらゆる有機物は自然に放置されると、125日 以内に分解消滅する。この自然界における有機物のバイオガス化を含めた分解消滅は、決して高温のみで起こってはいない。すなわち、人為的に浄化槽の温度を 上げるなど人工的な手を加えると、高められた温度以下でも分解可能な成分が、残留物として浄化槽の中に残ってしまうことになる。

B)大量の有機物に対する浄化槽のバイオガス発生に必要な条件
有機物の自然状態での、ゆっくりとした分解消滅の過程をふまえて製作された浄化槽の大きさは、その処理量に応じて2種類あり、各 部寸法は引用文献あるいは 第5章 を参照されたい。製作には鉄板を用いたが、空気に接するところはステンレス板が望ましい。また、水もガスも漏れない様に溶接する事は当然である。浄化槽の 寸法は、有効にバイオガス化するために得られた寸法であり、大きな入力に対して、いくらでも大きくすればよいというものではない。大きくなり過ぎると、ふ ちの方などであまり発酵しない等むらが起こる。畜産業や多くの人間の集まるところでの排泄物のように、さらに大規模な投入を必要とするときは、後述する許 容量を参照し、これらを必要な数だけ並べればよい。
次に、この浄化槽の使用法の概略を述べる。

1)嫌気性条件を与える。
2)設置場所は、先にも述べたように低温メタン菌の自然発酵によるので、地中に埋設する必要がある。冬季日当たりが良く、寒風が 余り当たらなくて、地下水 位の低い場所を選定する必要がある。
3)投入原料のpHは7.2〜7.6(ほぼ中性か弱アルカリ性)が望ましい。原料中に尿が多いと、pHが8以上になるので、野菜 屑、残飯、米ぬか、麦糖な どの酸を生じる物を投入し、pHの調整をはかることが大切である。
4)槽内での液の攪拌は、酸性低下域にガスが溜まることによる液面膨潤、ガス取り出しによる液面低下と、槽内の流動脈流による自 然撹拌に依存し、人為的に は決して行わない。丁度、それは人間の胃腸と同じ動きをする。
5)この浄化槽を使い始めるに当たって、非常に大切な部分はシーディング(種付け)と慣らし運転であり、引用文献か、第5章にそ の部分をコピーして載せた ので参照されたい。
6)人間のし尿、畜糞尿、残飯残菜、幣獣等、腐敗する有機物なら全てバイオガス化する。ただし、腐敗の遅拙があるようにバイオガ ス化も自ら難易の差が生じ る。
7)投入有機物量については、一般的に中温発酵で2〜3kg/m3/日、高温発酵で5〜6kg/m3/日を発酵槽に負荷させるこ とを目安としているが、こ こでは自然状態での発酵であるため、1kg/m3/日を目安としている。地域的な差異もあるため、大規模型1台当たりの毎日の投入量は下表による。


表1 -1-1 1日当たりの投入量

8)発酵槽内の固形物濃度、すなわち、全重量に対する乾物の重量比は、6〜8%が 最適である。
9)浄化槽は投入原料(加水分を含む)の約70〜80倍の容量を持っている。しかし、ゆっくりとしたバイオガス化を前提にしてい る関係もあり、夏期の場合 でも滞留日数は100日を越している。表1-1-2に地域別の各領域での滞留日数の様子を示す。



表1 -1-2 地域別の各領域での滞留日数

C) バイオガスの生産
1)生成ガス含有分類と含有量
投入物質により各ガスの含有率は異なるが、生成されるガスと大凡の含有率は表1-1-3の通りである。生成されるガスを総称して ここではバイオガスと呼 ぶ。



表1 -1-3 生成ガスの含有率

悪臭の源になる硫化水素、アンモニア、インドール、スカトールは、脱硫剤で脱臭で きる。

2)バイオガス生産量
バイオガス生産量は投入有機物1kg当たり、0.1〜0.7m3である。従って、2〜21m3/日と有機物の種類によって差異が 認められる。
バイオガス燃焼による火炎温度は、188℃位である。この時のバイオガスの熱量は、5,500〜6,500kcal/m3と変化 し、平均 6,000kcal/m3といえる。なお、参考までに、メタンガス1m3に相当する各種燃料の同じエネルギーを示す量を表1-1-4に示す。



表1 -1-4 メタンガス1m3に相当する各種エネルギー源

KW の実験住宅に設置した小規模(家庭用)タンクの例−大規模タンクの消化速度も同じ& minus;では、1人の1日分の糞 尿と生ゴミで、 春、200ccコップ1/3杯位、夏、0.5杯位の水を沸かすことが出来る(さらにデータ整理した上で正確な数字を提出したい)。成人の1日の摂取カロ リーを2,300kcalとすると、1%程度のエネルギーに対応すると思われ、人間が生存する限り、毎日一人の排泄物から回収できる安定したエネルギーと 言える。

D)スラッジ及び病原菌、寄生虫卵について
1)残留物、スラッジについて
先にも触れたように、この槽においては適正に運用されれば、有機物はほとんどがバイオガスに分解され、残留物、すなわち、スラッ ジの発生が無い。オーバー フローからの排水も生じない。理由については、まだ完全に解明できていないが、
i)あらゆる有機物は125日で自然消滅する。タンクに原料を入れた後、人為的な加熱や撹拌はしないので、その分解、ガス発生の 過程は、糞の場合の期間で も100日以上と非常に長いこと。
ii)槽内は強制攪拌せず、微生物の濃度及び種類が平衡状態におかれていると考えられる。すなわち、複 雑な有機物質から有機酸を形成する微生物叢と、それらを発酵してメタンガスと炭酸ガスにする微生物叢との間に、バランスが保たれているためで、槽内には不 消化物が出来ないと、現状では考えられる。
iii)しかし、生ごみや家畜の糞を通じての土分は分解せず残るので、10年くらい毎にそれらを除去するのが望ましい。

2)病原性細菌と寄生虫卵について
病原菌を滅菌するには、煮沸して滅菌する方法と嫌気性滅菌がある。槽内での病原性細菌及び寄生虫卵は、嫌気性発酵なので滅菌され るが、それを促進させる ため、生命短縮板を取り付けている。表1-1-5に示す各種病原性細菌、寄生虫卵の最大生存期間が観察された。この結果と表1-1-2の滞留日数を比べる と、この槽からそれらは出てこないことが分かる。



表1-1-5 病原性細菌と寄生虫卵の槽内最大生存期間

上記の冬期の生存期間は、発酵が正常状態に至った時は、夏期の生存期間となる。

E)シーディング(種付け)と日常的な使用法
1)シーディング(種付け)
最初のシーディング(種付け)は非常に大切であり、これを適切に行わなければならないが、詳細は引用文献あるいは第5章のそのコ ピーを参照されたい。
先ず、バイオガスの出口のコックを閉める。くみ取り式の便所の人糞を20トン投入する。点検口より引用文献の図& amp; amp; minus;2の下の点線まで水 を入れ る。水洗便所の人糞は絶対使用してはいけない。理由は、それらはすでに尿素分解していて、バイオガス化しないからである。その後、乾燥鶏糞15kg入り 50袋を投入口より投入する。最初のガスは空気なので、メータが0になるまで外部へ放出しコックを閉める。これを3回繰り返す。5回目に点火して火がつけ ば、浄化槽が完全に活動したことになる。

2)連続投入するまでの慣らし運転
この浄化槽でシーディングがすんだ後は、徐々に1日の投入物の量を増してゆく慣らし運転が必要である。子供の胃袋から大人のそれ へと変化してゆく様子に 例えられよう。この過程は投入物によって異なる。そして、完全に稼働した後、表1-1-1に示す1日の連続投入量の処理能力が得られる。それぞれの投入物 に対しての説明は第5章付録を参照されたい。その時に投入すべき水の量も大切で、連続投入の時と同様、有機物1:水1、は守られねばならない。ただし、人 糞の場合は糞に尿が含まれているので、糞尿1:水0.5を目安にするとよい。この様に、その時の有機物の水分含有量の多少も考え、水の量を選ばねばならな い。そして、どの場合も、最初は少なく投入して慣らし運転をし、段々投入量を増やして行くことが大切である。
春は、段々暖かくなる方向に向かうので、標準のシーディングと慣らし運転の日程に7日加える。夏は標準でよい。秋は15日以上加 算して計画する。冬は25 日加算しておくとよい。
また、12kPaの圧力を維持すること。それが最もメタンガスが発生する圧力である。これを越えると抜き取る。これにより投入し た有機物が、低面の斜面に 沿って移動し、次のメタン発酵が励起されることになる。

3)脱硫材による脱臭
悪臭を発する硫化水素などを除去する脱硫剤が市販されており、このタンクに対しては25年間連続使用できる。この脱硫材を再使用 するには、むしろの上で約 1ヶ月雨に当てると、黒い色がもとの茶色にかえる。

F)小規模浄化槽(家庭用)
引用文献の図−2において括弧内に示した数字は、小規模浄化槽に対する寸法である。ただし、病原菌生命短縮 板と点検口のある領域 (C)への 開口は、引用文献の図−3の様に設ける。病原菌生命短縮板は、コーナーに設け、その後に点検口のセクション(C)への開口を設ける。
この場合のシーディングも大切であり、次のように行う。

i)タンク内に水をいっぱい入れる(引用文献の図−2の下の点線まで張る)。
ii)古い人糞を7トン投入口より入れる。この場合も水洗便所からの人糞は使用してはいけない。尿素分解していてメタン化しない からである。
iii)その後、乾燥鶏糞15kg入りを40袋入れる。
iv)バイオガス発生を待つ。

ii)の過程で、人糞が得られない場合は、全て乾燥鶏糞で15kg入りを70袋程度入れてやるとよい。KW の実験住宅では、i)の後、鶏舎で尿を含む鶏糞 を直接集めて、約1.5トン入れたが、1週間以内にバイオガスが発生し始め、一時圧力は15kPaになった。その後、人糞や生ゴミを入れ始めたが、現在は その投入量が少ない(平均すると1日1人分)ゆえに、圧力は8kPa程度と低い。しかし、安定して毎日コップ1/5〜1/2杯の水を沸騰させる事ができる (正確な数値はデータ整理をして後日報告する)。また、水面のレベルは、適切な水の付加で、オーバーフローから水がでない様に保っている。

平時使用においては、糞尿と水との比を、2対1に保つことを目安にするとよい。排泄物の他、腐る物なら何でもよいが、先に述べた 割合、有機物1:水1、 を守らねばならない。すなわち、メタンガス(CH4)を形成するには、炭素(C)1に対して水素(H)が4必要であるが、糞尿中にHは2程度しか含まれて おらず、さらに2程補ってやらねばならないということである。この比率を守るために、人糞に生ゴミを一緒に入れると、水の補充が緩和される。KWの実験住 宅では、簡易便器(1踏みで280ccの水を供給する)を使用している。さらに、最近流行の洗浄機を併用して水を加えている。製紙の過程は大変なエネル ギーと環境汚染を伴うが、紙の使用量を少なくする点からも利用している。
投入物の限界は、20kgの糞尿(人間1人1日約1kgを排泄)に5kgの生ゴミである。5kgの糞尿とすると20kgの生ゴミ である。生ゴミとして草 も青いままなら、水分を適当に含んでいるから、どのような種類のものを入れてもよい(乾いた草は入れない方がよい)。しかし、大切なことは、ここで述べた 1日当たりの許容量を、決して越えてはならないことである。
KWの実験住宅では、図1-1-2に示すように、浄化槽、脱硫器、圧力計、レギュレーター、ガスコンロとつなぎ日常的に用いてい る。バイオガス用に設計さ れたコンロは、まだないが、ガスの量がコックで調節できる簡単なものを使っている。



図1 -1-2 KWの実験住宅での使用状況

この実験住宅では、トイレから浄化槽までは、シャワー室の下を通って、20cm径 の長さ2.6mの 水平パイプで導いていた。すなわち、地下室天井近くに、浄化槽までの横引きパイプを吊って浄化槽へと糞尿を導いていた。水平にしたのは、斜めにすると多く の場合途中で乾いてしまい、糞詰まりを起こすからである。水平にしておくと、トイレ側で落とすと順次押されて、ところてん式に他端(浄化槽側)で落ちて行 く事になる。
しかし、長い間、使用後は蓋をした後、ペダルを踏み、水を流していたので、何故便器が汚れるのか分からなかった。実は、このパイ プの途中で既に発酵が始 まっていたのと、(A)セクションでの発酵ガスの圧力で、便器に落としたものが一部返ってきていたのである。エネルギーを1部損失している事にもなる。結 局、トイレを浄化槽の直上に移動した。
現在はトイレを浄化槽の(A)セクションの上部に移動したが、トイレから浄化槽に至るパイプを斜め(約40度)につけざるを得な かったので、糞尿をうまく 流すには十分に注意して行っている。
トイレの臭いの問題を解消するためにも、住宅計画上の配慮が必要である。すなわち
トイレ部分を外に突きだし、そこでの換気に期待する。そして、冬の場合を考え、トイレは十分断熱性にしておかねばならない。床面 積は、1mx1.7mあれ ばよい。タンクの幅は1.5m、投入口のセクションは50cmの幅しかない。その位置関係の一例を図1-1-3に示す。



図1 -1-3 トイレと浄化槽の配置の例

浄化槽を外に、平行に設置する場合も直角に設置する場合も、トイレを横向きに設置 し直接落とす。シュートはトイレに隣接させ、同 じくまっすぐ浄化槽の水 面に落とす。現在のシュートは下部で斜めになっているため、生ごみを落とすのに時々突っついている。そして、両者から落ちるものが干渉しないように、十分 落とし口を離す。
臭いの処理は、換気筒を設けることで低減できている。投入口のセクションからもガスが発生しており、大気よりも高圧のはずだから (A)セクションへは空気 は入ってこない。すなわち、嫌気性は維持できる。
どうしても横引きのパイプが必要なときは必ず水平にすること、それを何時も流動状態にするために、1週間に1度バケツ2杯ほどの 水を与えてやるべきだ。 それでも横引きパイプの中で発酵が始まり、排水の時にガス圧を感じることは覚悟しておかねばならないだろう。発酵ガスを抜くために、外にガス抜きの煙突を つけるのも1案である。このガスがどのようなものかを調べた上で、外に放出する必要があろう。
ガス圧が一旦0になると、それから所定の圧力に戻るまでには時間がかかる。特に冬の場合は、浄化槽内での発酵に、より時間がかか るので回復は遅い。
実験住宅の浄化槽は全て鉄板で作られている。その酸化ぶりは急速で、近い将来漏れも生じそうである(約12年使用)。水と空気の 接するところから上部を ステンレス製にすることは意味がある。さらに、プラスチックの再生利用に限って、これを置きかえてやると、その使用期限は格段に長くなろう。新しいプラス チックの使用は問題外である。多くの工夫が快適なトイレにしてくれよう。

G)その他の注意事項
浄化槽の使用時に、ガスが出ないなどの失敗の多くは、許容量を超えた投入物を入れたり、水加減を間違ったりした場合である。図1 -1-1でなぞらえたよう に、人体の消化活動に対応していると考え、その活動を阻害するような作業はしてはならない。
余り長時間使用しないでガスを溜めておくと、メタン菌の餌がなくなるので、発生したガスを逐次使い、投入物が槽内を順次流れるよ うに使わねばならない。
酸性発酵なので、石鹸水などアルカリ性の物は多量に入れてはならない。投入してはいけないものは、石、砂、ビニィール、ゴム製品 類、おがくず、わら、も み、などである。
生ごみや動物の排泄物に含まれる土分も10年もすれば溜まってくるようだ。10年に1度は取り除かねばならない。

おわりに
残留物が一切出ないというこの浄化槽を用いることにより、他の公害問題での処理原則の様に、各々での源で処理する事になり、河川 や海洋への放流による富栄 養化を防ぎ、そのための下水道工事も不要になり、焼却のエネルギーも不要になることを強調しておきたい。
家庭で使う場合、これ一つで必要エネルギーを賄うわけにはいかないが、人間一人から毎日回収できる確実なエネルギーである。
水面下にガスを蓄えるので、その水圧で外部に押し出す事になり、浄化槽上部で火災が起きても引火爆発の危険性はない。その圧力の 制御で使用量を加減でき るが、あまり槽内に長く溜めておくと、メタン菌への餌がなくなるので、浄化槽のガスは適当に使用しながら、投入物を順次流動させて使うことも忘れてはなら ない。
NZでは、Kikuyuというアフリカ原産の光合成の盛んな牧草が猛威を振るっている。その抑制をかねて、この浄化槽を介してエ ネルギーに置き換える実験 もする予定である。
また、再利用のプラスチックに限って、この寸法の浄化槽を作ることも検討する意味があろう。
プラスチックの皿を使い捨てにしているところでは、有機物、例えば、じゃがいも、とうもろこしで作った皿等を用いると、これらも 一緒に浄化槽へ投入する事 ができる。
人の多く集まる駅や空港、それらの輸送機関などのトイレからの糞尿、食堂からの生ゴミ、畜産業の排泄物など、これらはこの浄化槽 を用いる事によって、積極 的にエネルギー源にする事ができよう。
エネルギー源として燃焼させた後の炭酸ガスは、温室に導き、そこの植物の光合成で酸素にかえる事が期待出来る。KW実験住宅で は、温室内に浄化池を設 け、茅葺き屋根の葺き替えのために、葦やイグサを育て、その分解吸収力によって住宅からの雑排水の浄化処理もしている(現状は異なっており水の浄化の項で 述べる)。
この様に、人間の地球上での行為が、地球環境に負荷をかけなくなったとき、初めて持続可能の系が閉じられることになる。

1− 1−2)太陽エネルギーの直接収集
先にも述べたように、地球に降り注ぐ太陽エネルギーは膨大だ。これをあらゆる生き物と分け合っている。そのことを忘れないで、直 接取り込めれば生活に有 効に役立たせられる。以下は、日本太陽エネルギー学会に提出した文献(‘自然と共生する’実験住宅ーカイワカ村 から の報告(その2)ー太陽放射の集熱方法について,Vol.22,No.1,p15-23(1996))に省略、加筆しその可能性を説 明する。

持続可能な生活において、一定レベルの快適性を維持するのに必要なエネルギーを確保するには、一種のエネル ギーに頼るのは難しく、太陽エネルギーに関連 した色々なかたちのエネルギーを収集する必要がある。ここでは、種々の料理における各部の温度変化を測定すると共に、その料理を行うために太陽エネルギー の直接的な収集をどのようにすればよいのか、具体的な実験を行ったので報告する。すなわち、ソラーオーブン、ソラークッカー、温湯取得システム、天空日射 からのエネルギー収集、多孔質材による集熱などについて述べる。

(1)料理を行う時の温度変化
一体、料理には、どの様な温度、放射、エネルギー等が必要なのか、そして、その時の時間特性はどうなっているのか、具体的に、数 種の料理をして調べた。そ の結果を参照して、後述するどのタイプの太陽エネルギー集熱器が、それらに適しているのかを検討するためである。
周りの空気温度を上昇せしめて料理する場合として、ガスオーブンでの鶏肉焼き、接触する表面温度を上昇せしめ、こげ目をつけて料 理をする場合として、フラ イパンでのビフテキ、煮物の場合として、鍋でのシチュウと炊飯、揚げ物として、冷凍コロッケを料理した。
料理の経過時間に伴う各部の温度変化を、図1-1-4、5、6、7に示す。温度は直接サーモカップル(T(CC))を挿入、ある いは接触させて測定した。 測定位置は各図内の略図に示す。
図1-1-4の場合は、容積30.5cm×29.3cm×18.5cmのガスオーブン で、表示された温度 160℃で料理した。 材料は、骨付きもも肉(207g)1個を用いた。温度変化を測定した図中の5点について示す。比較的低温で料理したため、50分かけたがこげ目も付きうま く焼けた。なお、表示温度230℃の時は15分で料理を終えた。



図1 -1-4 ガスオーブンでの鳥肉焼きの温度特性

こげ目は空気温度によったものと思われるが、高温の放射部分が必要ならば、後述の ソラーオーブンを使う場合、内部に特に高い日射 吸収面を設けて、放射 する面を作る必要があろう。なお、このガスオーブンはファンによって風を送り、熱伝達層をはぎ取り、熱い空気温度を直接当てる工夫がしてあり、この方法は 手動によるFanによってソラーオーブンにも用いうる。
図1-1-5は、フライパンの鉄板を介しての料理であるが、ビフテキ一枚140gをフライパンで比較的低温で料理した。約6分で ミーディアムに出来上 がった。後のソラークッカーにおいては、その焦点位置におく容器には、鉄板あるいは石板等熱容量の大きいものに蓄熱し、表面温度を十分上昇させ、こげ目を つける工夫が必要である。鉄板の表面温度は、150℃程度でよかろう。



図1 -1-5 フライパンでのビフテキ料理の温度特性

図1-1-6のシチュウの場合は、材料として、じゃがいも、人参、玉葱、鶏肉 (200g)各一個を用い、まず、それらを鍋底面で 炒め、鍋に蓋をして料理を した。所要時間は約30分であった。温度は100℃までである。



図1 -1-6 鍋でのシチュウ料理の温度特性

点線は、シチュウを沸騰させた後、保温器にいれた場合の温度変化である。

図1-1-7には、揚げ物の例として冷凍して準備された3個のコロッケを揚げたときの結果を示す。油の温度 は200℃近く必要であろう。



図1 -1-7 冷凍コロッケのフライ時の温度特性
300ccの植物油の中で3個のコロッケを揚げた場合

炊飯(3合)の例について、その鍋の形状に合わせた高断熱の保温器を作り、沸騰点 に達した後この容器に納め、料理を継続する方法 で料理した。この時の保 温容器内での温度変化の様子を図1-1-8に示す。シチューの場合も同様に行い、その様子は図1-1-6に点線で記入した。両者とも味も余り変わることな く、米はふっくらと炊きあがった。



図1 -1-8 保温器の概要と炊飯時それを用いた場合の温度変化

最近、真空断熱された同様に調理するための器具を入手した。容積を取らず、この考 え方がより巧妙に使われているので、KWではそ れを用いている。
一般に、ガスや電気を用いる場合は、多くのエネルギーを逃がしているようである。それを十分節約する(スカートをつける)と共 に、このように保温器をうま く使うことによって多くのエネルギーが節約できる。
準備のできた調理器に料理をするものを乗せると、その種類によっては、瞬時に温度が下がる。今後、各調理器の熱容量も測る必要が あろう。

(2)各種の料理用の集熱方式
i)ソラーオーブン方式
太陽光に向けた開口に入射するエネルギーを、直接及び開口側面で反射させて黒塗、断熱された低部の箱に蓄熱する方法で,図1-1 -9に概略を示す。上部 の反射鏡と熱を閉じこめる底の箱とは、それらの接合部で取り外しが簡単に出来るようにしてある。反射鏡の材料は、段ボール紙の上にミラープレート(商品 名)を貼っているが、段ボールは水に弱いので、薄い合板などに変えるのがよいと思う。KWの現場では、断熱材に羊の毛を使っている。その様子は後日報告し たい。



図1 -1-9 ソラーオーブン方式による集熱

図1-1-9のソラーオーブンの、反射面の反射係数を0.7、箱上部のガラスの透 過率を0.8、箱内表面の放射吸収率を0.8、 箱壁面の熱貫流率を 0.64kcal/m2hr゚C、箱内表面材の熱容量を0.352kcal/m2゚Cとして、実験した日の直達日射量(75〜380kcal/m2・ hr)を代入して、箱内部の温度を前進差分によって計算し、箱内の空気温度の測定値と図1-1-10に比較する。ただし、空気の比熱は、その時の温度を変 数として公式により求めた。



図1 -1-10 ソラーオーブン内の空気温度の変化に対する実験と計算結 果

開口の面積も当然大きな要因の一つであるが、側面で反射した光がすべて下部の箱へ 入射するようにするには、幾何学的な制約がある ことに注意せねばならな い。
この時、開口の反射面はそのままにして、図1-1-11に、オーブン箱部分の種々のパラメーター、すなわち、(i)箱壁面の熱貫 流率K、(ii)箱内表 面材の熱容量CAP、(iii)箱の容積V、を変えた時の温度変化を先の直達日射量が、(1)270〜440kcal/m2・hrと(2)590〜 640kcal/m2・hrの実測値について、計算した結果を示す。各種料理の温度変化に対して、日射量を参照しながら、これらを調整してソラーオーブン を設計することができる。(2)の場合のように、日射が十分大きいと簡単に高温が得られそうである。
晴れていて、雲が分布しているような状態のある一日の直達日射量を用いて、断熱材、熱容量を変えた場合の箱内の温度変化を計算し た。その結果を図1-1 -12に示す。これらを用いて上手に設計してやれば、太陽が雲間に入った瞬間でも温度が急に下がらず、一定の温度が得られて、使用可能と言えよう。
一つの料理を終えて、次の料理に移るまでの入れ換え時の熱損失を小さくする工夫の一例を図1-1-13に示す。

(i) 箱壁面の熱貫流率の変化 (ii) 箱内表面材の熱容量の変化 (iii) 箱の容積の変化
横 軸単位間違い

図1 -1-11 ソラーオーブンの箱内の種々のパラメーターを変えたときの温度変化。



図1 -1-12 曇り対策のソラーオーブン。



図1 -1-13 入れ換え時の工夫の例。

ii) ソラークッカー(パラボラ形曲面による反射方 式)
図1-1-14に写真と共に示すごとく、凹曲面の焦点にエネルギーを集める方法である。反射面の間口は 100.6cmx100.6cmで、16.7cm角 の格子に分け、ソラーオーブンの反射面の材料と同様の材料を切って全面に貼った。焦点距離は50cmの放物面である。

 

図1-1-14 反射方式によるソラークッカー

ここでは、直径14cm、深さ6.5cmの小さな薄いアルマイト製の鍋を用い、低 面外側を黒く塗り、熱が逃げないように、その外 部に約4cmの空気層を とり、耐熱ガラスで覆い断熱した。さらに鍋の蓋も耐熱ガラスとした。ガラスの厚みは図に示すとおりで、これを支えるのは鉄製のアングルで、それを12mm 厚の板で支えている。全体の重量は、約14kgであった。
当研究室でもこのクッカーと同様のものを作成し、300ccの植物油を満たし集熱したところ、快晴時に油の温度は260℃まで上 がった。その後、冷凍保 存していたコロッケを揚げたが、その時の各部の温度変化は、図1-1-15に示すようになり、カリッと揚げることができた。なお同図に、その時の外気温、 直達日射量を示す。



図1 -1-15 ソラークッカーによる鍋内の植物油とコロッケ内部の温度 変化

この鍋のように平らな底を持つ場合、その底で受ける熱量は、それを小さな平面にわ け、やはり区分された反射面の各部から受ける量 の合計として簡単に計算 できる。低面では反射光を放線方向に受ける方が効率はよいはずであり(特に日の出、日の入り近くで)、さらに検討している。
ここでは比較的薄い底の鍋を用いたが、ビフテキなどを焼く場合は、底の厚い熱容量の大きな鉄板か石板が必要となろう。あわせて料 理用具としての工夫をして いるところである。
横浜で鉄工所を営む服部さんからは、ソラークッカーやオーブンについて、私のホームページを見られて、Emailでいろいろ質問 をいただいた。製品化に 向けて頑張っておられるはずだ。ここを訪ねてくれた西村君(当時広大学生)も最近興味を持っているとか。蛇足ではあるが、特に、冬場は太陽高度の高い時間 帯(午前10時ごろから午後2時ごろ)をしっかりねらう必要がある。

(3)その他の種々の集熱方 法。
i)2次元反射鏡による集熱。
KWの実験住宅では、屋根内のソラールームの床に、深さ約2.8cm、縦横2.4mx1mの6個の黒塗した亜鉛鉄板で作った水槽 を設置した(現在は使用 していない)。特に夏、日の出までの浮力を得るための蓄熱槽であり、この温湯は日用にも供する目的だった。しかし、冬の日没時に最高27℃しか得られず、 このままではシャワー用の温湯としては低すぎ、何等かの工夫が必要であった。図1-1-16に示すような2次元の凹曲面反射面を用い、焦点位置のパイプに 太陽エネルギーを集めて、温度上昇を計る方法を検討した。



図1 -1-16 2次元凹曲面集熱器

手始めの実験として、パイプは直径2.5cm、肉厚1mmのガラス管を黒く塗り、 それに直径12.4cmの透明なプラスチック管 をかぶせた(空気層は 4cm以上あったが、対流の影響は無視して計算した)。凹曲面の開口は、100cmx100cm、焦点距離は20cmとした。この時の管内水温の変化と計 算結果を図1-1-17に示す。



図1 -1-17 2次元凹曲面による水温の上昇

実験住宅ソラールームには、直径18cm、長さ4.8mのステンレス管に、空気層 4cmをとり、透明なプラスチック管のカバーを つけた。反射面は開口を 約1.5m。ある冬の1日、反射面のフィルムをはがさない状態で38℃を得たが、まだ十分な温度ではない。現在のヘッダータンクの位置を更に上げて、水槽 の傾斜を45度にまでするには、タンクのタワーの強度に問題が生じよう。Thermo-siphonを モーターで行わしめようとしたが、風車発電の電力には余り期待できず断念。また水槽に異種金属を使っていることから、バッテリー効果が生じ、漏水が起こっ たために現在水槽は空にしている。結局、当初の計画どおりには事が運べず、後述するソラーパネルを別途設置することとなった。

ii)天空日射からの集熱
全天空日射からのエネルギー収集は、一般に直達日射が主として注目されているが、曇天時でも最低限どこまでの熱量が期待できるか を知っておくことは大切 である。図1-1-18の様な表面を黒く塗った球面を用いて、その内部の水にどの様に蓄熱されるかを見た。ここでも2cm厚の空気層をおき、透明なプラス チックでカバーし、それが有効であることが分かった。

 

図1-1-18 黒塗の半球面による集熱。

水温の計算は以下の様に考えた。すなわち、天空面は半球面と考え、曇天の日に測定 した水平面天空日射から、その表面放射量を推定 し、黒塗の半球面を環帯 に分けた上で、天空面との立体角投射率を求めた。コンクリート面からの反射も反射係数を0.1として加味し,等価外気温を求め、水温の計算をした。その結 果と実験結果を、天空日射の測定値を添えて、図1-1-19に比較する。この半球面に直達日射のみが当たった時の水温の計算結果も示す。このタイプでは天 空日射の方を効率よく集めている。

(i) 黒塗半球面内の水温の変化 (ii) 測定した天空日射量と直達日射量

図1 -1-19 黒塗半球面内の水温変化の測定値と計算値
点線は、直達日射のみがあったった場合

この集熱器による冬のある一日の内部水温の変化も図1-1-20に示す。



図1 -1-20 ある冬の曇天日の黒塗半球面内の水温変化
外気温、全天空日射量も示す

iii) 多孔質材による集熱
50℃を越す牛糞の発酵熱の経験(櫻井;“自然と共生する実験住宅−Kaiwaka村 からの報告(その1) − ”、太陽エネルギー学会誌、Vol.21、No.1、p27-35(1995)のp.32Fig.5参照)から、多孔質材の熱吸収に ついて、 種々の材料について比較しながら集熱実験を行った。すなわち、6階建て校舎屋上に、内のり38cmx26.5cmx21.5cmの段ボール箱を2重 にし、比較的断熱した箱に、次のようなものを充填し、上部を透明なプラスチックで覆い、東西に一列に並べ日照条件を一定にし、その表面近くの温度や内部温 度を測定した。充填したものは、グラスウール、その繊維表面に黒い塗料を散布したもの、羊毛、ステンレスの線状になったたわし、それに黒い塗料を散布した もの、馬糞、牛糞、藁のきりくず、それに黒い塗料を散布したもの、等である。
2、3の材料について、このときの温度変化の様子を、比較的快晴の日を図1-1-21に、曇天の日について図1-1-22に、各 部の温度変化の様子を示 す。その日の法線面直達日射量も添えて示す。それぞれ興味のある特性を示すが、次のような点は、今後、種々議論すべきであろう。

(i) 表面近くの温度の変化 (ii) 内部の温度変化 (iii)法線 面直達日射量

図1 -1-21 比較的快晴の日に測定した種々の多孔質材の日射吸収による表面近く及び内部の温度変化

(i) 表面近くの温度変化 (ii) 内部の温度変化 (iii) に法線面直達日射量を示す。

図1 -1-22 曇天の日の多孔質表面近く、および内部での温度変化

すなわち、

 (i)動物の糞の発酵熱が高温を保ちながら、時間遅れを与えている。ただし、この現象は1週間も経つと弱 まって来る。
 (ii)ステンレスたわしの表面近くの温度が、それを黒く塗った時より大きく、日射吸収率が大きい。
 (iii)羊毛は日射吸収率が一定量あり深さに対して温度減衰がゆっくりしている。

次に、羊毛とステンレスについて温度分布を少し詳細に測ったので、図1-1-23にステンレスについて示 す。特に、ステンレスたわしについては、ステン レス繊維の素材としての高い日射吸収率と共に、繊維同士間での相互反射、その周りの空気層の断熱効果によって、大きな日射吸収が得られたものと考えられ る。




図1 -1-23 ステンレスたわし内の温度分布

これらの結果から、表面をステンレスで覆い、下部に羊毛を充填した組合せで、その 間に黒塗のパイプに水を充填させた集熱機構が考 えられる。プラスチックパ イプを用いた時の水温の変化及び温度分布を図1-1-24に示す。図中には日射量も示した。



図1 -1-24 羊毛をステンレス層で覆った集熱器内のパイプ水温の変化 と温度分布。

おわりに
4cm以内の空気層を取りガラス面で覆うと、空気層内での対流を防ぎ、内部に効率よく温度が保てることが示された。
ソラークッカーの詳細図は、図1-1-14に示すとおりであるが、全体の重量は側面が木の板のために 少し重い。ここにうまくデザインした穴を開け軽量化し、反射鏡や低周波を逃がさないためのガラス容器を量産化して、低価格化する方法を考える必要がある。 反射鏡は大きいので、風を避けるための設置方法も検討しなければならない。料理時の保温箱の有効利用も、自然に優しい羊毛を使うなど、実用化へ向けた検討 が必要である。
料理の時に調理器の周りから逃げて行くエネルギーを、最小にする方法も、この際、検討に値する。
話は変わるが、シャワーを浴びるときの様子を考えて頂きたい。石鹸を付けるときも温水は流しっぱなしである。温度調節した位置で のon-offができるノ ブを最近取得し、現在取り付けている。水のみならずエネルギーの節約になり、有意義といえよう。
人類が使用する全エネルギーは、地球に降り注ぐ太陽エネルギーの1/15,000といわれる。これを上手に取り込んで、化石エネ ルギーを使わない努力は 重ねて行かねばならない。ここでは、直接取り込んでゆける手法について、種々提起してみた。さらにより具体的にこれらを考えてゆくと共に、読者の方々にも 実用化に向けてのご協力をお願いしたい。

1− 1−3)ソラーパネルによる太陽集熱システム
2002年9月、当地製作(DonSlater)のソラーパネルを友人(LarsHakenbergVanGoothbeek) に紹介され設置した。温水を循環させる間に太陽エネルギーを取り込むという点では、かつてソラールームの水槽と蓄熱槽で試みようとしていた仕組みと同様の ものであるが、先にも述べたようにヘッダータンクの高さに制限もあり、断念し、熱交換の効率や取り付けの簡便性から、別個に取り付けることにした。
1枚のパネルは、図1-1-25のように、幅125cm、長さ180cm、深さ7.7cm。表はガラス板で覆われ、内部には銅パ イプ(9mm内径)8本 が縦に並べられ、各パイプには銅板の翼(幅142mm)が付けられている。それらのパイプは下部と上部でつながっており、水が充填されている。

 

図1-1-25 ソラーパネルの写真とThermo-siphoning

それを太陽に向けて45度の角度におくと、温められた水は上部に移動する。屋内天 井裏におく蓄熱槽と1.5mほ どの高低差をつけてつながれ、冷たい水が下部にかえってくる。銅パイプのまわりに張られた翼は熱交換のためのものであり、黒く塗られている。パイプの下は 高断熱されている。この様に、ソラーパネルと蓄熱槽の間を、その温水に自然循環させ、太陽エネルギーを蓄熱して行くわけである。このしくみを Thermo−siphoningと呼んでいる。最初の試みでは、ポンプの揚力が別途必要であったが、これは自然に循環してくれる。
実験住宅では、先ず、3mx3.3m高さ約4mの小屋を作り、その小屋の北面に冬十分に太陽に直面するように45度の角度で、こ のパネルを2枚横に並べ て立てかけた。小屋内部にはWetbackを持った図1-1-.26のような暖炉をおき、冬日照の少ない時に、そこで火をたいて、Wetbackからの温 水を、同様に蓄熱槽に循環させるように、小屋内部で両者のパイプをつないでいる。2冬 使ったが、一人住まいでもあったので、冬、宿泊客が来た時3回ほど火をたいたのみであった。この時の温水は、シャワーと食器洗いに使われ、冬シャワーの回 数が少なかったことも背景にあるが、非常に有効なエネルギー取得の方法であり、大きなエネルギー源になることは間違いない。

 

図1-1-26 小屋内のWetbackを上部に持つ暖炉

このシステムのポイントはThermo−siphoning にあり、いずれその仕組みをシミュレーション し、さらに検討を進めたい。

このシステムの導入時に、温冷水栓への水の供給を、一つのヘッダータンクから共通にしたので、冷水(C)と 温水(H)の価値が無料の太陽エネルギーのおか げで等価になった。偉大なる太陽に大いに感謝したい。

これと同様の理屈をソラールーム内で行うと、冬の暖房にうまく供せられる。すなわち、そこにソラーパネルと 蓄熱槽をおき、自然循環させると、日中蓄熱さ れ、夜間暖房用に使われる。その間、温水を循環させるポンプの電力は、摩擦抵抗によるものだけだから余り多くはいらないだろう。
また、ソラールーム上部に溜まる高温の空気を、ダクトで地下室に導き、循環させると空気を介したThermo-siphonとな る。一定温度以下(例えば 18度)では使用しないのは当然である。
この様にすれば、両者によってソラールームに落ちるエネルギーの多くが利用でることになろう。今後の検討してゆく予定。

1− 1−4)燃料木材の生育(コピスCoppicing)と炭化
雑木は昔からよく利用されている燃料である。光合成でまわりの空気の炭酸ガスを炭素として固定してくれる。それを炭化しようがそ のままで使おうが保存が きくし、燃やした後も大気から取ったものを放出するので、その炭酸ガスの量の比率を変えない。この点に注目してLAの風車発電のような規模で、木を育て、 それによって発電をしようという試みが英国であるといわれている。
光合成の盛んな木を育て、一定の太さになったとき、1.5〜2mの高さで切って、切り口回りから出てくる小枝や、地面から新しく 出る幹を薪にして、冬期の 燃料にする習慣が、昔から英国にありCoppiceと呼んでいる。当地の木々で経験を積んだ人が、木の種類、育成年限、必要本数、その植林計画等について 報告している。
この実験住宅でも、アカシヤ7本、アルダー7本、ポプラ5本、柳4本と5,6年前に植えた苗木が、もう20mをこえる木々に育っ ている(図1-1- 27)。1,2年もすれば1.5m位の高さで切って、Coppicingを行い、枝や根を切った後、乾かして炭作りをやってみたい。

ア カシヤ ポ プラ
アルダー

図1 -1-27 大きくなったコピス用の木々

これらの枝木を炭化してやれば、煙が出なくなり、屋内での燃料に使用できる。そし て保存も利くから、この住宅での貴重な料理用の 燃料となる。木は、そも そも炭素、酸素、水素と微量元素とからなる。炭焼きでは、酸素のない状態で熱を加えて、酸素と水素を除外するわけである。その時の温度は約400℃から 1,000℃で、それによって出来上がりが異なり、料理に対して使い分ける。勿論燃料としてのみでなく、多孔質性を利用して吸着、土壌改良と使途は多くあ る。また、炭作りのときに出る木酢液は、防腐剤などにも使える。
1,000m2に育つ木から1,000kgの木炭が取れるといわれるが、それを 適用すれば、500m2の雑木用地を当てているので500kgの木炭が得ら れることになる。1日1.4kg使えることになるが、ここKWで実際に育てた結果から生産量を比べてみたい。
この時点で、バイオガスは主として炭火の着火用に考え、羊の糞や鶏の糞などで発生量が増えると、燃料としても使用出来る。従って そのためのガスレンジ1 個。風車発電が余剰な電力を供給してくれる時のための電気レンジ1個。そして、2個の炭火用レンジと、4個のレンジを持つクッキング台を設計しようとして いる。
最近、RowFoodistの会に出席したことがある。彼等の食べ物の85%は生で、その酵素を殺さないようにして食べていると いう。出来るだけエネル ギー消費を少なくするためにも、素晴らしい方法と思った。

1− 1−5)風車発電
風車は3基ある。家の外側から1kw、300w、400wの発電力である。こちらでは松の木が安く手に入り、約20cm直径で 10m位のを、一部地中にコ ンクリートを打って埋め(基礎)、3方向からワイアーでターンバックルを介して引っ張られている。柱の頂点には10cm径、3mほどの鉄のパイプを取り付 け、そこに風車を取り付けている。それぞれ地上から約9mの高さにある。図1-1-28に、電気室、バッテリー箱とともにその写真を示す。

(i)  左から400w、300w、1kwの発電機 (ii)  バッテリー (iii)  電気室(Inverterなど)

図1 -1-28 3基の風車での発電

それらの出力は、整流器で整流されてバッテリーにつながれている。バッテリーは自 動車用のもので6ボルトが4個直列につながって おり(したがって24ボル ト)、350am.hrの容量がある。
過剰電力は、一定電圧(この所29ボルトにしている)以上になると、バッテリーを長持ちさせるため、蓄熱槽内の直流用の発熱器に 捨てられる。それ以下の 時は、Inverterに送られ、240ボルトの交流にかえられる。それは50Hzの矩形波の交流で、50Hzの正弦波に設計された一般の家電製品には、 高調波が足を引っ張るかたちで効率を落とす。一工夫必要である。すなわち、Inverterの出力が正弦波のものを購入するか、家電製品を直流で使用でき るようにするかなどが、今後の検討項目だ。
真ん中300wの風車下1.5mの位置には、風向風速計を取り付けていたが、現在は7m(確認のこと)程離れた位置に立つ、高さ 約5mの別の柱の先に設 置している。これとそれぞれの風車との相関をとって、それぞれの効率を比べることもやりたい。勿論、風向風速計は室内気候の推定に不可欠なデータを与えて くれる。
こちらの電力会社Northpowerでは、遠隔地の家には電線をひくのにお金がかかるので、風車をすすめており、会社の中にそ の部門を作った。定期点検 もするといっている。ある時、2つあった400wのが壊れたので、それらから一つを再生し、もう一つを1kwのに変えた。これらの工事も Northpowerに頼んだ。(残念ながら、最近はこの部門を縮小か停止したそうだ。)
この1kwのが、最も外にあるせいかも知れないが、風に対して感度よく回っている。400wのがもう一つなので、これも1kwに 変えたいところだ。壊れた 理由は発電器の鉄心が雨ざらしにされ、錆びて膨張し銅線を切ってしまったようだ。
先にも問題点に触れたが、Inverterを運転するには電力消費が伴う。直流で設計すると、モーター類の寿命が短いし、直流は 電圧が変えられない、な ど欠点もあるが、直流で他の家電製品が運転されるようになると、効率は上がろう。大きな課題を持つが、新しい方向性のある議論だと思う。
大まかにいって、風車のみでなくその付属部品の値段が高い。1kwの風車を買うまでの合計(400w2基、300w1基)は、約 15,000ドルと高価で あった。しかし、RecycleとReuseを確立して上手に使えばよいし、さらにその手法に磨きをかけねばならぬ。
300wの風車は、微風に対しても感度よく回転するので、むしろ非常時用として残し、近い将来、少なくとも400wを1kwにグ レードアップする事を考え ている。
なお、最初に購入したバッテリーは12年ほど使ってきたが、寿命が近づいてきたようだ。2次公害が起こりうるので、最近開発され だしたキャパシターによる バッテリーも検討の対象にしたい。
室内灯は、LEDの電球使用で消費電力も減らせる。

1− 1−6)地中熱利用
地球の熱容量は有り難いものである。8mも地中に下がると、地表面の空気温度変動の平均値になる。その年間変動の変動幅は、深く なるにつれて指数関数的 に小さくなって行くから、3.2m下がるだけでも、平均値に対する年間の変動幅は小さく、±2度程度である。ここKWでは、大まか にいっ て、外気温は0℃から30℃と変動するので、地中では15℃を中心にふれており、実際、地下室では12.5〜16.5℃と変わる程度である。
これを、特に夏、屋根に設けたソラールームで熱せられた空気の浮力で、地中に埋めたクールチューブを通して、地下室から引き上げ るわけである(図1-1 -29、30)。そのために住宅は、高気密、高断熱、高熱容量を目指して作ってある。開口部を3重に出来るように準備しているのは、高断熱を目指してお り、その例である(図1-1-31)。後日熱貫流率の測定を行い、実用的な方法を検討したい。



図1 -1-29 3本のクールチューブへのベントとソラールーム



図1 -1-30 地下室のクールチューブの出口



図1 -1-31 高気密、高断熱の開口部

内径30cmのコンクリートヒューム管が、深さ3.2mに、東西両側に3本ずつ 10mの長さにわたって埋めてあり、地下室の壁に 入ってくる。地下室のコ ンクリート床もその様な有効な熱交換面であり、それより高さ80cmの位置に床を張り、その片側1/3を季節風の方向によって開けてやる。2/3部分の床 下を通って、クールチューブを出た外気が床との熱交換をして開口から地下室へ上がってくる。
熱交換された空気は、床に設けられた直径10cmの12個の換気口から、リビング、台所、寝室などのある1階に、ソラールームの 浮力で引き上げられる。
ある時の室温変動の例を、図1-1-32に外気温とともに示しておく。外気温の日平均温と室内温を比べてみると、地中温の影響が よく分かる。図中計算値と あるのは、安積君のコンピュータープログラムによるものであり、それらについては後述する。さらに、図1-1-33は、その年最も暑かった日の前後の実測 値からのクールチューブからの熱取得量である(勿論負)。



図1-1-32 地中熱による家屋内 (北側寝室)の空気温度調節



図1 -1-33 クールチューブによる地中からの熱取得
(a)はこ の年最も暑かった日とその前後の2日のリビングの室温変動
(b)はそのときの熱取得量である

このシステムについての注意点は、地下室は夏でも16.5度と低く、冷房病に似た 現象を受けることであ る。温度差への順応のため厚着をするなりして配慮せねばならない。しかし、空調機によるものではなく、いつも新鮮空気がはいってくるわけだから、温度変化 のみに配慮すればよい。しかし、健康との関連については、さらに十分な研究が必要だと思う。
もう1点は、クールチューブ回りからの雨水の漏水である。現在各クールチューブ出口でそれらを受け、樋 で受けて一個所に集め、外に流している。幸い丘の上にある立地条件から自然に近くを流れる川へと放流される。冬の雨期には多量に流れてくるが相対湿度は余 り上がっていず、湿った感じは一切しない。
なお、地下室が雨水で浮かないように、地下室コンクリートブロック壁の外回りには、40cmの砂利層を設け、その下部には、直径 10cmの穴明きプラス チックパイプを配し、一個所に集めて放流しているが、その個所に屋内で集めた水も合流させている。

1− 1−7)近い将来の計画、実験、課題
※クッキングレンジの設計
炭によるコンロ2個、電気レンジ1個、ガスレンジ(バイオガス)1個、オーブン1個をもつクッキングレンジを台所に作らねばなら ない。主たるレンジは炭に よるコンロと考えているが、その火付けはいつも大変だった、と子供のころを覚えている。そこにバイオガスのノズルをつけ、火付けに使いたい。
炭作りとともに緊急課題だ。簡単なスケッチを図1-1-34に示す。



図1 -1-34 各種エネルギー源を利用するクッキングレンジ

※風 車のグレードアップ
3基の風車が有効であることは経験した。すなわち、春や秋の季節の気圧配置の変わる時期や冬の不安定な気候のときはよいエネル ギー源になる。グレードアッ プも緊急課題だ。

※SterlingEngine による発電
日本の夏は、風はないが日射が非常に強く、そのエネルギーを温度差発電に利用できる。SterlingEngineは外燃型のエ ンジンで、高温側と低温 側を作り、その間の空気を介してピストン運動させ、動輪を動かし回転力に変えるものである。現在の自動車の内燃型エンジンに押されて、あまり利用されてい ないが、19世紀初頭にスコットランドで発明されたエンジンである。エンジンの模型の写真を図1-1-35に示す。



図1 -1-35 SterlingEngineの模型

この温度差を得るのに日射を集めて作ることが出来る。焦点をおくようにして集めら れた日射(反射鏡でもよいしレンズでもよい)を 高温側にあてる。他方は空 気温でよい。
この時得られた回転力は、発電に用いる。太陽追尾はその場所と時刻がわかれば確定できるから、それをマイコンあるいはチップに収 納し、一部の電力をそれ用 に使用する。残りをバッテリーに送る。おそらく十分なお釣りが返ってこよう。

※住宅内の温度差による発電
冬地下室12度、ソラールーム晴天時で30度以上の時には、ヒートポンプの蒸発ガス部分に、タービンを置き発電できないか。夏は 勿論温度差は広がり、16 度と50度くらいにはなろう。

※多孔質による吸熱と冬の暖房
Stainlesswoolの吸熱は、太陽エネルギーの直接集熱の項で述べたように、意外に大きい。図1-1-36に示すよう に、あまり深くない内部に パイプを回し、水を封じ、水槽のタンクに循環させ蓄熱する。冬の晴れた日の日中のエネルギーを、夜の暖房に取り込む方法だ。



図1 -1-36 Stainlesswoolの吸熱性を利用した温水器

システムは十分断熱されねばならない。前のガラスも耐熱性のものを用いる。従って 開口面積は限られる。太陽追尾& minus;おそらく手動による −も忘れてはならない。冬の夜間放射は快晴の日に大きい。これと補完し合うであろう。
熱交換部分以外は、ソラーパネルと同様の理屈である。

※地下室での寝室
年間の温度変化が12.5〜16℃であること、人間の発熱量が100から150wあることから、断熱された小さな部屋を作り、冬 の寝室にすることも可能 だ。最小限の換気口をつけることを忘れてはならない。断熱壁はワインの空き箱に枯れ草を充填し、縄でつなげばよい。

※ソラールームの得る太陽エネ ルギー利用の暖房システム
Thermo−siphoningが太陽熱の集熱に有効であることが分かったので、ソラールーム内にこのシ ステムを置き、日中、蓄熱 槽内の水を高温にして、夜間、ラジエーターに送り、暖房に利用することが考えられる。
デッキにソラーパネルをおきAttickに蓄熱槽をおくと、ラジエーターとの高低差が減って摩擦抵抗によるロスや温度差による重 力差分が少なくなるの で、ポンプアップのエネルギーが節約できよう。また、ソラールームのトラスに蓄熱槽を支える耐力があるかも気になっているところである。
ソラールームでは、先のソラーパネルに落ちる以外の太陽エネルギーは、空気温を暖めることになり、この時大きな上下分布を作る。 天井の間近では相当な高温 になっており、ここからダクトで地下室天井下に配したダクトに送風する。地下室から居室レベルを通ってソラールームへ返ってくる。その間住宅内に蓄熱さ れる。空気を介したThermo-siphonである。この2点の改良で冬の暖房は相当改善されよう。
このシステムの定式化を第2章の(4)新しい科学の方向の項に示した。このシステムを住宅の熱環境の過渡応答と対応させて解きた い。パイプを横に並べるの と、縦につなぐのとで、どちらが有効かなども議論することができよう。

※外風呂計画、Kikuyuで 菊湯
アフリカから持ち込まれた、牧草に使われているKikuyuという光合成のさかんな草がある。ある本によると、その光合成による エネルギー変換率は、 8.1%もあり、他の草の4.7〜4.8%をはるかにしのぎ、猛威を振るっている。過去40年の間に北島を半分は覆いきってしまっている。このままだと北 島は、牧場以外の使途はなくなるだろう。不利を有利にするというのは我々の思うところの一つである。これを燃料にして使いたい。
回りを見渡せる位置に外風呂を作ることも考えている。太陽エネルギーを取り込み、その後でKikuyuを燃やして、 Wetbackで温水を得る。音をも じって菊湯と名付けている。1日を振り返る時間、明日を考える時間を持ち、リラックスする場としてよかろう。しかし、Kikuyuを収穫するときのエネル ギーと、それから得られるエネルギーの対比検討は大切であろう。

この項のまとめ
以上種々の太陽エネルギーの利用法を、住宅計画各論として検討してきたが、まとめてみると次の様になろう。

※太陽エネルギーの直接収集
1 ソラーオーブン
2 ソラークッカー
3 2次元反射鏡による集熱
4 天空日射の集熱
5 多孔質材による集熱
6 ソラーパネルによる太陽熱集熱システム
7 SterlingEngineによる発電(温度差発電)

※草木を利用してのエネルギー収集
8 燃料木材の育成(Coppice)と炭化
9 浄化槽によるバイオガス
10 菊湯

※自然現象の力を借りてのエネルギー収集
11 風車発電
12 地中熱利用

料理用には、主として、1、2、8、11(ただし、強風時)が主役を演じよう。殊に8は貯蔵も出来るので都 合がよい。9は炭火の火付け用に主役を与える が、 動物達の協力(羊や鶏の糞)でそれ自身も使えよう。そして、先に述べたように、酵素を生かすべく生で食べることで、健康にもよく、多くのエネルギーの節約 にもなろう。
6は1.8mx2.4mのパネルで、ほぼ一人分のシャワーや皿洗い用の温水が1年中賄える。枯れ木、落ち葉、Kikuyuなど雑 物を暖炉で燃やしてやれ ば、4人家族ではこの2倍の面積が必要となろう。
うまく完成できれば、3と7による電力を上乗せできる。情報伝達のためInternet接続のPCに、第一に使われねばならな い。そして、小さな冷蔵庫と 夜間の照明にも供せよう。本実験住宅では地下室に多くのものが貯蔵できるし、作物は出来るだけ畑においておくことで貯蔵と同じ効果が得られるが、最小の冷 蔵庫は必要である。
暖房には、6、12、さらに、ソラールームで蓄熱し、ラジエーターに循環してやる方法はぜひ必要だ。現在東壁内面を気密にするべ く、計算上の効果を検討し てから施工の方向にある。
10はリラックス用としてやってみたいが、決してという意味ではない。

この様に、太陽エネルギーを広い目で捉えて行かなければならないであろう。すなわち、各種の取得エネルギー の総量の季節変動をしっかりととらまえ、具体 的な使用量と、その時間パターンをもとに、その配分、生産量を十分検討する必要がある。そのためには、エネルギーを貯えることが大切になる。蓄電池、ガス として容器に蓄えること、土壁や水の熱容量、地中熱、雨水の貯蔵、coppiceとして木に蓄えること等、すべて遅延系の要素と考えられる。

1−2) 住宅設計計画
1−1)で述べた各論をどのように住宅計画に取り込むかは、具体的な場で丁寧に検討しよい計画にまとめて行 かねばならない。ことに、 その前 の段階で住まい(住宅建築)の熱環境計画が非常に大切である。ここではその議論が初期段階に行われるべきであることを強調するにとどめ、第2章で詳しく本 論を述べる。
太陽エネルギーに依存する住まい方の最も大切な出発点は、その土地で地形、地質、気候(風向風速、晴天日曇天日)などよく観察 し、しっかりと理解し、それ をもとにどう家屋設計に取り込むかにある。
住宅を一つのシステムとして考えるとき、その熱収支は、熱伝導の式と空気の流体としての流れの式を繋ぐことによって熱環境は解け る。それを用いれば、住 宅の向き、ひさし、開口の大きさや位置、壁構造の詳細、等などによって、その場での快適な熱環境設計が出来る。積極的な太陽エネルギー利用の手法と云え る。このコンピュータープログラムは、教え子の一人、安積弘高君(相愛学園大学、非常勤講師)が作成してくれた。先にも示したとおり室内の温度変化は、実 測値によく追従しており、その差は大きいところで1.5℃であった(これも人間による外乱に起因している)。このコンピュータープログラムは十分実用段階 にある。計算の概要や結果などは第2章で述べる。
さらに、住まいの精度を上げるための環境計画も大切で、住宅計画のフローチャートを含めて、その総合評価の手法も第2章で述べ る。


(2) 自然に存在する回りのもので住宅を造り生活する

世界の各地にはその土地で育ってきた固有の住まい方、生活の仕方がある。それは そこの先人達が永年住んでいる間に見出してきた、 自然との対話の結果、すな わち自然からのおくりものだ。大量生産方式が導入されるまでは、綿々とそれが引き継がれてきた。これを風土主義(Vernacular)と呼んでおこう。
日本を例にとっても、その多彩ぶりは枚挙にいとまがない。段々に築かれた水田は、日射、風向、水供給と排水、永年かけて得られた 思考錯誤の結果であると ともに、偉大なインフラ(社会基盤(Infrastructure))だ。その間、得られた米が食糧とされるのは勿論、藁までもが縄になり、わらじにな り、すさとなって土壁施工に使われる。住まいにおける障子、ふすまは、先人達の精緻を極めた仕事だ。「夏を旨とすべし」という昔からの思想の反映である。
これらが消えてしまおうとするのは非常に残念なことである。もう一度、我々のまわりを見直して、しっかりと持続可能な生活に結び つけたい。

2−1) 茅葺き
草葺き屋根は、世界各国諸所に見られ、典型的なVernacularである。材料もその地の草から農作物の副産物、海草に至るま で色々ある。例えば、スス キ、葦、稲、小麦、Tallfescueな ど、中が空洞で茎の強いものがよい。葺き方は基本的によく似ているが、雨の降り方や量で形が変わったり、風の強さで棟のかたちを工夫したりとさまざまであ る。茅葺きに鳥が来るか、花が来るか、コケが来るか、すべては葺く素材とその地の気候と屋根の勾配に関わっているようだ。
これら洗練された技術も工業化の荒波の中で、生き絶え絶えに残っているのが現状だろう。そして、材料の入手困難も深刻だ。日本で は村の共有地ですすきを育 てたりして、葺き材料を確保していたが、それも少なくなってきた。持続可能に向けて研究すべき課題だ。

2− 1−1)茅葺きの施工
普通、茅葺きは内外から縫っていくが、実験住宅では図1-2-1のように合板の上に葺いたのでNorbertは苦労したことだろ う。その時の施工時の様子 を図1-2-2に示す。



図1-2-1 茅葺きの原理

  

図1-2-2 現場施工時のショット数枚

2& minus;1− 2)茅葺きの修理
以下はある日の日記からである。
茅葺きの修理に、最初にNorbertが来てくれたのは、彼の施工後3年たってだった。時間があまりなかったので大した修理には ならなかった。
その後、ポッサム、鳥、そして雨に荒らされるが、ごく一部を自分で直しただけで、材料もなくどうすることもできなかった。
7年後、またNorbertが来てくれた。最初の修理の前に、bulrush(畳表に使われるイグサ)刈りに出かけた。地元の Bugleという新聞に広 告を出し、何処にあるかの情報を集めた。数人からの反応があり、そのうちの2ヶ所で、2、3人の手をかりて刈り集めた。私にとっては本格的に集めるのは初 めてのことで、こんなにしんどい仕事だとは思わなかった。1週間も続けると私には限界で、こんな所にも茅葺きの難しさが秘められている。温室内に棚を作 り、乾燥させたが、適当な量と思っていたのが不十分で、Norbertが来てくれたものの、下半分の修理に終わった。その間、やはりBugle(地元の小 さな新聞)に茅葺きの修理のデモをすると広告を出し、地元の人達を呼んだ。15人ほど来てくれて、Norbertの説明を熱心に聞いた。
彼と相談の結果、下半分のみ残し、その上はshingle(こけら板)で葺くことにし、彼はいったん帰った後、再度来てくれた。
上部の茅を降ろすわけだが、まだ使えるものは上で束ね下に放り投げてもらった。先の5cm位は雨で痛んでいたが、その下にあった 部分はまだ十分新鮮で あった。これは温室の棚にNorbertのギロチン(草の茎をそろえて切る裁断器)できれいに切って並べた。いずれ地下室に移動せねばならないが。
茅葺きの修理には2通りがある。大きく穴が開いている箇所で、押さえ込むための鋼線の下が空いていれ ば、そこに長いままで差し込み、さらにしっかりと押さえ込む。穴が小さくて鋼線のまわりにまだ残っていると、適当な長さに短く切った茅を、木で出来た平ら なハンマーでたたき込んでやる。鋼線の下から先の無くなった箇所に差し込んでやるわけだ。もし、これが緊密にある場合は、改めて差す分を押さえ込まねばな らない。これには下の桁に、木ねじを先につけた茅の厚さ分だけの長さがあり二重になっているものを、桁にネジを差し込み、茅の表面を抑える半分に割った竹 を押さえ込む。
2002年2月、鳥除けのネットをかけた。人間の目にも近くでも気がつかず、鳥もあまり来ないで、巣作りもあきらめかけたよう だ。
Norbertは土産に、茅に差して使う椅子(椅子の下に2本の薄い鉄板で出来たピンがつけてあり、それを茅に差し込んで安定さ せる)と、茅を叩く板を 作って置いていってくれた(図1-2-3)。また、同図には彼がこの屋根を葺いてくれたときに使った茅葺き道具一式も示す。

 

図1-2-3 Norbertの茅葺き道具一式-左-と茅葺補修用の道具

空洞のあるよい茅が必要だ。葦は最も良いと思われるが、NZではnoxious (有害で育てることを禁じている)だという。稲が うまく長く育ってくれると 良いのだが、また、麦も茎の長いのが取れればよいのだが。
最近、マオリの人達から、北の方の湖に、Kutaという2mにも育つreedのような草があると聞いた。是非現場を訪れ検討して 試したい。

2− 1−3)各地での屋根葺き
白川郷は日本だけでなく、世界遺産としても認められ、よく知られている。大阪の服部緑地には、すばらしい茅葺き民家のコレクショ ンがある。KWで施工する 前に見学に出かけた。そこで撮った写真等、世界各地の茅葺き住宅の例を示す。

白 川郷
日 本の民家-故堀江教授による
白 川郷での葺き替え-その1-学友岸本さんによる
白 川郷での葺き替え-その2-学友岸本さんによる
東ヨーロッパの民家-故堀江教授による
Waimate のDavid Studholme宅のCuddy
東 ヨーロッパに民家-故堀江教授による デ ンマークの海草で葺いた民家-丸茂関西大教授による

図1 -2-4 世界各地の茅葺き

2& minus;2)雨水利用
NZにおいては、今のところ酸性雨の心配がないので、遠隔地での多くは雨水を飲んでいる。貯水タンク(コンクリート製、高さ約 2m、直径約2.5m、容 量15,000ℓ)に光を入れなければ、水が腐ることもなく、病原菌も長生きしないようだ。現在のシステムを書くと、図1-2-5のようになる。

図1-2-5 雨水供給のシステム 図1 -2-6 枯葉などの大きな混入物を取り除くSludgeTrap

我 々はこの水を一旦沸かして飲んでいるが、もし、病原菌やウィルスを殺せるフィルターがあれば、大きなエネルギーの節約につなが る。竹炭などにいわれる殺 菌効果も検討してみたい。揚水にはいずれ手押しポンプを使う。
グランドタンクのOverflowは浮いた有機物を流してくれることだろう。中の水位が簡単に分かるようになれば、管理がより楽 になるので、出口の横にU 字管をつけるとよかろう。
貯水タンクの入り口には、大きな濾過器を取り付けた(図1-2-6)。SludgeTrapと呼ばれ、葉や雑物が樋から入ってく ると、一旦大きな筒の中 に落とし、中に浮いているボールが浮き上がってくる雑物を抑えてくれ、その上澄み近辺の水をタンクに入れる。この所、時々、タップからの水を注意深く見な がら、直接飲んでいるが、まだ体調を崩した事はない。
毎日の必要量は手押しポンプで揚水するつもりだが、その例として石油を移す時のポンプを設置した。しかし、goサインを出すまで は電力によるポンプに頼っ ている。

2−3) 土壁
土壁も典型的な日本のVernacularだ。1990年1月AKL大学建築学科で催された小さな国際会議での講演に、にわか勉 強をして発表した時の原稿 ‘VernacularaspectsofJapaneseclaywalls’を再録する。

日本の土壁の変遷について、特に風土的背景との関連でその特徴をみ、風土に育てられたそれらの技術を、今後 どの様に自然と調和する手法として用いうるかを 議論する。日本の住宅の建築については、古くから‘夏を持って旨とすべし’と あり、夏季の高温多湿の気候には相当大きな比重があった。従って夏季は日射遮蔽と共に、その不快さは通風によって緩和することに主眼がおかれてきた。その 故に構造は木組によるを主とし、壁は単なるパーティションあるいはカーテンウォールであった。すなわち木組が構造を支えた。西洋建築における多くの壁体が 構造壁として位置づけられたのに対して、日本壁のそれは非構造壁であった。さらに忘れてならないのは、非構造壁といえども地震国という大きなハンディも背 負ってきたということである。そのためには木舞下地が不可避なものとなる。
古き遺構(1300年前からのもの)の例は、法隆 寺の壁にみるが、それには下地に木舞と呼ばれる編目状のラスのようなものを造った。古くは細い木の枝や細く切られた木(小割材)を用い、藁縄で編まれた。 その上から、藁を切ったすさを混ぜた土、あるいは粘土を混ぜたものを塗り付け、下地壁を造った。すさとは、塗り土などが乾燥時に収縮し亀裂が生じるのを防 ぐため、混入する繊維質の植物性のものである。例えば、稲藁、麻、紙などである。下塗りには粘土分の著しく強い土に15cmの稲藁をすさとして混ぜた。こ の上から粘土分の少ない土を細かくふるって中塗り、仕上げ塗装(すさは同様に稲藁ー3cm程度)を重ねた。この最後の仕上げには、平安時代から白土、石灰 が用いられ、その後石灰による表面仕上げは、城郭や土蔵の白亜の表面仕上げに用いられて行く。
木舞の小割材に竹が登場するのは平安中期、全面的に置き換えられたのは桃山時代 である。木舞は亀裂防止のためであるが、壁土を保持する耐震構造として働い たことにも注目せねばならない。左官工事は桃山時代に確立されるが、その源は奈良時代にあった。石灰に紙を混ぜる手法は日本独特のものである。石灰は正石 灰(Ca0)に水を混じた消石灰(Ca(OH)2)が主流であった。
城郭の壁面は、攻撃に耐えるべく堅固で、耐火性が必要である故、土の層を十分厚く仕上げた。姫路城(1601ー05)の壁は 49cmにも厚く仕上げられ た。その構造は主として図1-2-7に示すような方法があるが、やはり木舞が基本的な下地であった。この木舞に下塗りを十分するが、以後の仕上げとの融合 性を得るために、木舞から30cmぐらいの藁縄をたらした(流し縄)。これにすさを混ぜた泥饅頭をからませ(手打ち)厚い下地を造った。彦根城は2重 木舞であり、間に小石を詰めたため手打ちによる裏打ちはできなかった。水平に近い面は下から塗らねばならないから、板面に細縄を巻いた竹などを打ちつけ て、下地と土の馴染みをよくした。塗り厚は少し薄くなる。その後中塗りを重ね石灰による仕上げをした。このように全ての壁面が白く仕上げられたことによ り、姫路城は白鷺城と呼ばれた。



図1 -2-7 姫路城の土壁

この石灰には当初、米粥を混ぜたが、米は貴重な食料とて代替品が必要であった。石 灰と併用して貝殻も仕上げ面に用いられたが、こ れに海草を煮沸して糊と して用いられた。この海草による糊は石灰に対する糊としても用いられ、1600年頃から庶民建築の上塗りに用いられるようになった。それまでの海草は食料 であった。時の技術革新と言われる。油も施工性を増すため混入されたという。糊料は接着力を増し、保水性を増す。また粘性を増して施工性を増す。
これらの手法は、後の土蔵建築にも適用された。木造の母屋は火災に弱く、堅固な倉庫が必要であった。城郭建築の厚壁の技法を適用 したわけである。 1609年に25もの城郭を建設した後、仕事をなくした多くの左官工が、ぜいたく禁止令で米が使えなくなり、海辺から得た海草や貝を焼いて作った石灰を用 い、町家の建築あるいは土蔵の建築に移行した。通気性を小さくし、堅固な開口部は巧妙な左官技術で何重にも機密な窓や扉を造った。第2次大戦の戦災でラス 下地モルタル塗を含め、木造建築が完全に消失したにもかかわらず、所々に倉だけは残った。このような構造は大きな熱容量を持ち、太陽からの輻射に対して反 射性であるため、地域風土に対応して、室内気候の制御に利用できよう。2重木舞下地に裏打ちをし、その間に空気層をとることは、熱貫流を小さくすることに 役立とう。
パーティ ションとしての薄壁は、その後木舞に竹を用いだし、壁に構造的な粘りができたといえよう。茶室は原木の柱、このような土壁などの非常に質素な材料で建て始 められた。その仕上げ面もすさがむしろ壁のデザインとして用いられ、素朴な印象を残した。また木舞下地をそのまま残し、窓とする手法も生まれた(下地 窓)。が、後に華美な方向へと変化した。江戸期に奢侈、贅を禁じる法律が制定されるが、これも質素な中での美を探求するという方向に、少なからず、その後 の建築様式に影響した。政治も少なからず、建築様式に影響を与えるものである。しかし、パーティションとはいえ、屋内で大きな面を構成するため、壁面は芸 術性を高める必要があり、各種の土を用いると共に、その仕上げは左官技術上の粋を凝らした。
桂離宮は、ドイツの建築家、BrunoTautにも賞賛されるように、すばらしい空間を残した。ここでは漆喰壁の表面は、石灰に 紙のすさを混ぜるという点 では同一であるが、パラリという表面を掻き落とし、粗粒な仕上げにするという手法を残した。
江戸と京都では気候や産出する建築材料の違いが建物にも影響した。Vernacularの妙味である。

消石灰(水酸化カルシュウム)slakedlime,calciumhydroxide,Ca(OH)2
正石灰に水を加えたもの。
正石灰(酸化カルシュウム)Calciumoxide,CaO
石膏プラスタ CaSO4usedwithretarderoraccelarator.

土壁の施工
実験住宅では、地下室を掘ったときの土を、3種類に分けて採取し、土壁塗りの指揮をしてくれた南島Waimateの DavidStudholmeと、その 友人のRonHutが、持ち帰りその選別をしてくれた。
2x4の木構造を基に、両側から土壁を施工した。日本の伝統である木舞下地を試みたが、作業時間が大変かかることが分かったの で、東側内壁だけに断念し (学生2人とで1ヶ月近くかかった)、他は西洋式の木ズリ下地とした。さらに、粗壁は粘土とスサ(プラスチック製)による日本式を試みたかったが、不十分 な議論の過程で、砂が混ぜられてしまった。ことに、荒壁に十分な乾燥期間をおいての施工は不可能だった。それ以降の2層にはセメントも混ぜられ、統一的な 概念での施工にはならなかったのが残念である。
日本式の壁の基本は、割り竹を網状に組み、ワラ縄で編んでゆく木舞を作り、その上から塗り壁を行っていく。このときの竹のしなり は長い間の地震に耐える 粘りを示し、ワラ縄は、乾燥した粘土がからんで保持する役割を持つ。最初の層の粗壁には、粘土とスサのみで乾燥を待つ(図1-2-8)。 粘土は固くなって、亀裂も多く入るが、スサがそれらをつなぐ役目をする。木舞の裏にはkeyができ、表面には乾燥により亀裂が出来る。その亀裂が次の層へ のkeyになる。2層目は砂を少し混ぜるので、その表面での亀裂は細くなるがやはりkey用の亀裂を形成する。仕上げ層は、粘土に細かい繊維、砂、ふのり (あるいは粥)を混ぜる。仕上げ層にセメントを混ぜると、粘土は水を出そうとするし、セメントは水を取り込んで結晶水を作ろうとするから、ゆっくり乾燥さ せないと大きな亀裂が出来るので注意が必要である。
2x4により断熱用の空気層が取れ、そこには種々の対流を阻止する材料を試みた。新聞紙を丸めたもの、プラスチックを丸めたも の、茅 (bulrush)、 グラスファイバー、羊毛、単なる空気層、と異なった充填材を入れ、今後それらの場所で熱流や熱貫流率を測定し、比較検討したい。なお、この住宅では、開口 部での熱流が室内気候を大きく左右するとして、3重の窓、扉を施工しており、これらも今後室内気候との関連で議論をする。中に入れた茅の熱伝導率を 0.063とし、12cm厚の茅を入れたときの土壁の熱貫流率は0.43となった。よく用いられる新建材による壁と等価な値であり、古来の手法によっても 十分熱的に快適な室内環境を確保することが出来るといえよう。

 

図1-2-8 土壁の仕組みと木舞下地



図1 -2-9 下塗りの実験とおかゆを混ぜた表面仕上げ

図1-2-9に示すように、最初の下地をいろいろと試みたが、統一見解が出来てい なかったのが残念であり、最近になって、その悪 影響が東西面で出てきてい る。これらはやり直されるべきだろう。
自然と共生するという点では、日干し煉瓦の建築も素晴らしい。世界各地でよく用いられている。しかし、地震に弱いことが大きな欠 点である。竹の建材とし ての使用は忘れられがちである。生育中の竹を種々の形に曲げて、土壁構造の筋として用いること、4角に育てて部材に使うことも考えている。

その間、表面仕上げに日本で用いているふのり(Gloioperitis)を探して回ったが、NZで は見つからなかった。海はつながっているのにと不思議に思った。事実、日本で馴染みの魚が、こちらでは手にはいらないことも分かってきたし、こちら独特の 魚も多くあることが分かった。すなわち、海水はつながっていても、生息箇所は回遊性のものは別にして、独自のもののようだ。
しかし、同じ地震国のNZでぜひ日本式の土壁は普及させたい。
Keyを日本語で何というか。・・・彩?


(3) 人間生活が出すものをきれいにする

環境汚染防止は、絶えず根源で押さえること、それ以外に方法はない。その汚染の原因が明確になるから、対処 の仕方も明確になる。その反面、もしそれらを混 ぜた後で処理しようとすると、やみくもに簡便な方法、例えば、焼却に走り2次的な環境汚染を伴う。家庭からの排泄物もその原則に従って処理されねばならな い。すなわち、人間が生活することで外部を汚してはならない。
人間生活による汚染源は、排泄物、洗濯やシャワー等からの洗剤を含む雑排水、燃料の燃焼による炭酸ガス、などが考えられる。これ らを浄化して自然に返すこ とで、人間が生きることが地球に負荷をかけないで、その生存の系が閉じられることになる。

3−1) 有機物のバイオガス化
1−1−1)で説明したように、尾関さんの発明は素晴らしい。排泄物や生ごみを根源で バイオガス化してしまうの で、下水道のよ うな大きなインフラ(Infrastructure)は要らないし、タンクの温度を上げるためのエネルギーも要らない。結果、日本での現行の様に排泄物を 燃やすエネルギーも不要になる。これこそ自然に浄化される過程をなぞらえた理想的なシステムだ。
当地では、乳搾りの時の糞尿は垂れ流しだ。それが河川や海に到達する。人の多く集まるところ、例えば、空港などからも多くの生ご みや飛行中の糞尿が出さ れる。AKL空港では一括して焼却処分しているが、その総量は1日7トンにもなるという。これらの処理に是非使ってほしい。
このバイオガスは燃やされると炭酸ガスになるが、その浄化処理は次項で述べる。

3−2) 雑排水と炭酸ガスの温室での植物の生育による浄化
この実験住宅の隣には、空間をおいて温室を作っている。その中には、ばっき槽を一つと3個の浄化池を作っている。さらに台所から ダクトで燃焼したガスを ファンで導き、途中で冷やしながら、それらの池の上に降り注ぐように作られている。それらは、池に植えられた植物の光合成で、汚水は分解吸収され、炭酸ガ スは酸素へと変換される。
当初の計画と実績は、日本太陽学会で1996年発表した文献に書かれているので、参照されたい。

櫻井;“温室での植物の生育による雑排水と炭酸ガスの浄化”、日 本太陽エネルギー学会誌、Vol.22、 No.4、p34〜37(1996)。

当時は、短期間での実験を目指していたので、池の枠に合板を使っていたが、最近、これらの池をコンクリート で造りなおし、漏水のない様にした上で、水の浄 化に対して色々な草などを試みている。その現状もここで報告する。

家庭生活から排出、排泄されるものは浄化して自然にかえされねばならない。各住戸で努力することで、大きな Infraすら不要になる。糞尿は、尾関式浄 化槽によってすべてバイオガス化し、そのメタンガスは料理用の燃料に用いている。従って、料理後の炭酸ガス(現在、バイオガスのみでは十分な燃料にならな いので、LPGガスも用いている)、台所、洗面所、シャワー室等からの洗剤を含む水や台所からの有機物などを含む雑排水は、ともに浄化してやらねばならな い。
ここではそれを、基本的には植物の光合成に頼る。料理後の炭酸ガスを主成分とするガスは、ファンによりダクトを通じて導かれ、温 室内に与えられる。雑排 水もやはり温室内のばっき槽に集めて、次の浄化池に導き、ジグザグした水路に通し、そこに植物を育てようとするものである。
開放された場所にWetlandsystem等と称し、植物に処理させる方法や、それを温室内で行う方法はよく見かけられるが、 多くの場合は、糞尿も同時 に処理している。温室内で料理の時に発生するガスを、同時に与える手法は余り見られない。

1)温室内の浄化池
平面図、断面図を、図1-3-1に示すごとく、温室内に3個の池を作り、砂層の上に、それぞれにジグザグする水路を作った。砂層 にはバクテリアの活動を 期待する一方、水路が長くなるほど、そこに植えた植物により、より多くの浄化が期待できるというわけである。図1-3-2には、新しくコンクリート製に なったそれらの写真を示す。




図1 -3-1 ばっき槽と3つの浄化池の断面図

ばっ 気槽 稲 の育つ第1浄化池 浮 き草の繁殖する第2浄化池
きれ いな水になった第3浄化池 台 所の排気ガス用のダクト

図1 -3-2 温室内のばっき槽、3つの浄化池、温室への空気ダクト。

さらに、この温室へは台所のファンから、料理のため燃焼した後の炭酸ガスを、ダク トを通じて導き(図1-3-2参照)、その間外 気によって冷され、植物を 植えた池の上に落ちることになる(炭酸ガスは空気よりも重い)。
シャワーの後の水は、まだ高温を保っているから、一端、別の断熱された池に分離して溜められ、パンのイースト菌の発酵等に当てら れ、最後は、ばっき槽へと 導かれる。このように集められたばっき槽からの雑排水は、すべて最初の浄化池に集められる。
建設当初、第1番目の池に、茅葺屋根補修のためのい草、第2番目の池には、光合成が盛んでバイオガスの材料となりうるホテイアオ イ、第3番の池には、食 用に供されるWatercressを予定した。しかし、住宅での滞在期間が1年の内4ヶ月未満(一般的に、大学の講義のない期間、3月中旬〜4月中旬、7 月中旬〜9月中旬、12月中旬〜1月中旬、作業をしていた)と少なく、水量が予想より少なかった。特に、夏の場合、盛んな蒸発ともあいまって、第1番目の 池すら満たせず、かれてしまうほどであった。また、当地では、ホテイアオイは繁殖力が旺盛のため、植えるのを禁止されている(noxious)ので断念。 結局、当初は第2、3の池は使用しなかった。それも漏洩も認められ、コンクリート製の池へと作り直した(後述)。合板を外枠に用い、鉄筋補強で約8cm厚 にコンクリートを打った。
第1浄化池は、深さ約1m。約2cm厚の、やはりコンクリート製の堰板でジグザグの水路を作った。その上で、川砂を深さ約 79cmまで埋めた。この池への 入口と出口のパイプ底面のレベル差は5mm以下で、砂の表面より上10cmのレベルまで水を張ることにした。
第2、第3の浄化池は、第1と同様コンクリート製で、徐々に深くした。
この様に、浄化池を温室内に設けることは、雨水の混入をさけ、室内気候を高温側に移行して、太陽エネルギーを積極的に利用しよう とすることになる。

2)第1浄化池内の植物の生育
い草はこの実験住宅の屋根を葺いた材料であり、その補給を目的として、第1池に1994年8月30日約10株を分布させて植え た。丁度NZでは、冬であ り春に向かう時期を選んだわけである。しかし、徐々に他の草も共存するようになり、放置したのでそれのみというわけには行かなくなった。
あるとき、NorbertからWaterreedを2株もらい第1池に植えた。 彼が入国時、検疫で許可をもらって持ち込んだものからの根だったが、後に noxiousで禁じられていることを知る。漏洩が確認されたのでコンクリート池にするべく、第1池を掘り返したが、驚くなかれ、平和そうに共存していた 多種類の草の下は、約30cm厚のreedの細い根のカーペットだった。それが雑草への養分にもなっていたのであろう。さらに驚いたのは、その下の砂層は 太いreedの根が縦横に走り、その他を圧するエネルギーに驚いたものである。これでは他の水草を、Kikuyuが他を圧倒しているように、駆逐してしま うだろう。noxiousであることを十分納得の上、それらを乾燥焼却した。なお、敷地の低い箇所に植えたreedはプラスチックシートで覆い、除草中で ある。

3)コンクリート池に代えてからの様子
2003年2月から始めたコンクリート池への改築が、やっと9月頃終わった。合板の元の枠を型枠の外側に使って、既製の鉄筋を配 して内側の枠を作り打つ ことが出来た。堰板も2cm厚のコンクリート(2cm角メッシュ入り)にした。厚さは施工の不慣れなこともあって、場所によって凹凸があり、図1-3-1 の寸法よりも内側に6〜8cm小さくなった。
漏水を防ぐため上塗りをした。砂も出来るだけ以前のものを使いながら図1-3-1のごとく入れた。砂は基本的にはバクテリアの生 育を活発にさせることだ が、濾過効果にも期待する。
先に予定した草がNoxiousのため、代わりに色々なものを入れた。まだそれらについては観察が必要なので確定的なものではな いが、夏に入って温室の気 温が上がりすぎ、直射もそれぞれに強すぎたので、天井半分に30%カットのスクリーンを張った。
第1池には、2003年6月に収穫した米の古株を数個移植した。草は濃い緑で元気よく、意外に汚染に強い草のように思われる。そ れがなんと田んぼの苗よ りも早く実をつけ、2004年1月時点で、すでに穂が垂れていた。昨年末、苗床からも10本ほど取り移植したが、それらにももう穂がつき始めている。 Azolaも入れたがそれらは後ろ半分を覆っている。さらに入り口へ向けて広がって行く気配だが、要観察である。
しかし、穂はうまく育たなかった。夜の冷え込みと、絶えず水に満たされていて、一気に種にエネルギーを送ることが出来なかったこ と、さらに温室に気流が なかったので、小さい虫Aphidの集中攻撃を受け、養分をとられ穂が黒く見えるほどになったことによるものと思われる。
第2池には、AzolaとWaterCressを入れている。しかし、現在は、Ducksweedという浮き草に覆われて、それ らは劣勢である。いずれに しても、この池の出口での水は相当きれいになっている。
第3池には、水蓮2株、PennyWarts1株、OxigenGrass1株、EelGrass1株を入れた。天井にスクリー ンを張っても表面からの 蒸発と、活発なこれらの草の光合成とで、水面がどんどん下がっていったので、この池にはその表面に更にもう1重張った。池の白い壁表面は、黄色っぽい藻が ひっついているので、見かけはさほどではないが、手ですくってみると驚くほどきれいになっている。しかし、最後の判断をするには水質検査をしなければなら ない。
最近の観察では、第3池は、コンクリートうちをしたときの継ぎ目から漏水をしているようで、修理を急いでいる。
2005年11月26日、 この村の一部だけに集中してヒョウが降った。大きいのはゴルフボールくらいあった。この地方に長く住んでいる人たちも経験したことのない異常気象だといっ ていた。地面を白く覆うほどで、田んぼの鳥避けネットにみるみるつもり、その重さでネットの継ぎ目の糸が三箇所で切れてしまった。そして温室の屋根のガラ スを直撃し、6枚が割れてしまった。ガラス製の温室を気象と関連させてさらに検討すべきだ。

4)おわりに
視察だけでも、第3池の出口での水質は、明かに、かなり浄化されている。3つ の異なる構造を持った池を、ジグザグしながら長い水路を経る間に、そこに生息する植物や砂槽内のバクテリアが分解吸収する上に、炭酸ガスの供給と、温暖な 現地の気候と、温室による高温側へ移行した環境によって、このような結果が得られたと考えられる。時々浮き草を取り除いてやるほうが、水の浄化によさそう だ。経路をさらに細く、長くしてみる必要もあろう。
炭酸ガスがどの程度、光合成で酸素へと変換されているのか、その濃度測定をして検討する必要がある。また、どの程度、雑排水中の 成分が吸収されているの か、水質検査をして、窒素や燐の成分を測定する必要がある。
第3池の草の種類の検討は、今後の課題だ。沼地に行って浮き草などを探したい。
高温下での雑排水の水分の蒸発は、浄化の一部といえよう。
この植物の活発な生育ぶりは、太陽エネルギーの積極的な吸収、蓄積であると考えることができ、それをうまくエネルギー源として利 用する方法を検討せねば ならない。すなわち、あるものは、浄化槽でのバイオガスの原料に、あるものは、堆肥の原料に、あるものは、食料として、植える植物を種々の角度から検討せ ねばならない。
温室の積極的な利用を求めないで、雑排水と炭酸ガスの浄化のみに注目するならば、家庭生活用に設置すべき温室としては、もう少し 小さくてもよかろう。
ばっき槽内の水の汚染度は、カエルとボウフラの許容限度内で、カエルがそれらを食ってくれているので、温室内の蚊は少ない様に思 える。新しい生態系が出来 ているようだ。勿論、その後の池は、住み心地がさらによさそうで、冬眠を忘れたカエルも多かった。
温室をエネルギー取得の手段として考えることも十分意味がある。ただ、夜の夜間放射にどう対応するか、検討項目だ。保温のために 夜覆いをしてやれば、その 環境がどのように変わり、どのように利用できるか、興味のあるポイントだ。

この様にして、この項で述べた炭酸ガスと雑排水の2つの処理によって、外への負荷は相当減ったものと思う。 再度強調したいことは、あらゆる公害防止の鉄則 のように、汚染物はその源で、しっかりと食い止めることだ。
人間は自然の中に住まわせてもらっている。それをいじくることも変えることも許されない。そして、太陽エネルギーの下、人間一人 一人の生活が周りの環境に 負荷をかけないように、その系を閉じなければいけない。自然がそれを歓迎し、草花、鳥、虫、小動物など、我々を和ませてくれる。なんとすばらしいことだろ うか。


(4) 有機農法による自給自足

(1)から(3)の過程を踏まえて、自分で有機農法に基づいて食料を作り自給自足すれば、収入を他から得る 努力をする必要がなくなり、個人は解放されるこ とになる。そして、余暇を楽しむ生活へと向かうことが出来る。化学肥料の使用、除草剤、殺虫剤、GEと 不自然な作物の作り方が真っ盛りである。ネガティブな言い方はしたくないが、「生き延びる」ためには厳密な防衛をしなければならない。作物を作るといって も、大量生産して売るわけではないし、自分の好みに合わせて、限られた時間内で作れるものから、有効に必要な栄養分が取れるように、上手に計画生産すれ ば、そんなに苦労が伴うものでもない。
育てる作物は、私の場合、まず、米。玄米で食べるとすれば多くの栄養(必須アミノ酸、ビタミンなど)が得られるから、他の作物を 多種育てる必要がない。大 豆は大切な蛋白源である。黒ゴマは抗酸化作用があるといわれる。サラダ菜や野菜も季節の旬で食べたい。動物性蛋白源として鶏卵等は必須である。
農業は「経験だ」と知りあいの一人がいっていたが、まさにその部分が大きい。失敗を繰り返し、自分のものになっていく。そして、 失敗した後の成功の歓喜は また格別である。しかし、与えられた年月は限られているから、お互いが経験や情報を交換しあっていかないと、正しく育てるための方法を獲得するための効率 は上がらない。日本の米作りの歴史が2,000年とすると、2,000回の試行錯誤が試み得たわけだ。しかし、2,000人 の人々の協力で、そこで得られた知恵、知識をうまく集め、分析的に議論すれば、その地でのよい方法は、より短い期間で得られることになろう。これは農業に おいて大切だと思う。プロジェクトの多様性のため、なかなか農作業に力が配分できなかったが、だんだんと経験も出来、農作業も整ってきて、楽しく作物つく りに励んでいる。
この敷地の土壌は、丘の上の土が粘土性であり、硬くて植物達が根を張るのも困難な土だ。乾燥するとコンクリートの塊のように堅く なる。養分も少ない。その 点、一番下まで降りると近くに流れる川が運んできた砂や養分のせいで、最も肥沃だ。丘のすそ野も基本的には粘土質だが、丘の上より軟らかな土質だ。少しず つ運んでいる。
菜園は、毎日台所と直結するから家の近くがよい。丘の上の住宅の西隣で約70m2からまず始めた。しかし、粘土は硬いか、ドロド ロになるか両極端の性質 を持つので作業性は最悪だ。さらに、南アフリカから持ち込まれたKikuyuという草が、成長が早く、その上、深さ40cmまで縦横に走っている。それを 取り除く作業だけでも年月が必要だった。日本と往復している間は、時間がとれず殆ど何も出来なかった。この草は、光合成について読んだある本(柴田和夫 著、“光と植物−光合成のエネルギーとエントロピー”、倍風館、1982)に書かれている アフリカ産の草だと思う。 それによると、普通の草の光合成効率は4.7から4.8%、一方その草は8.1%。どの草も太刀打ちできないわけだ。放置すると、それが凌駕するのは明ら かで、事実、NZに持ち込まれてまだ50年程度というのに、北島では、牧場や放置された土地では、この草に覆いつくされている。年間を通じて生えているか ら、畜舎を持たないこちらでは、冬の草の少ない時−寒さ、殊に霜には弱い−に夏刈っておいたヘイを補充するだけ でよい。牧場には 最適だが、他の農業にはまったくの厄介物だ。
この所の作業の多くはそれを押さえることに多くの時間がさかれている。クワで掘り起こし、徹底的に抜いたり、黒い水分透過性のプ ラスチック (Weedmat)をひいて日射遮蔽をしたり、と試行錯誤だ。松の木の下には余り生えていないようなので、プラスチックの下にそれを敷いて見ているがどう なることやら。人間の安易な考えが引き起こした最悪の例の一つだろう。
60歳で大学を辞めてからやっとこの7年間、少ない時間ではあるが着実に作業をしているものの、まだまだ土壌改良が必要である。 刈った草で堆肥をどんど ん作り、混ぜてゆくしかない。Kikuyuは光合成が盛んなので堆肥には出来る。7ヶ月という短期間だったが、羊を1頭飼っていたときはその糞も加えた (日本に帰国中の6月中旬、Facialeczemaが原因と思われるが、死んでしまった。楽しい思い出を残して)。畑は、丘の上に70m2、 斜面の中腹 に30m2、下の段に30m2と点在している。後者の2 箇所は、そこにKikuyuが生えていて、それを抜いた後の代替物に野菜を植えたのだが、先にも述 べたように異なった土質として比較できる。

米は131m2の田んぼから、2001年60kg、 2002年80kg、2003年48kg、2004年 78kg、2005年66kg、と変動(気候の 影響のみではなく、多年草としてのbiannual性も含まれていると推定している)はあるものの、KWで作る自信は出来た。面積の有効利用も考えねばな らないから、この田んぼの裏作に何を植えるか検討すべきだ。
今年は多年草性を利用して、すべての株が古株からだ。現在、順調に育っているようであり、収穫が楽しみだ。このような育て方に 至った経緯は、第2章で紹介 したい。

4人家族には、菜園は100m2が必要と思っている。菜園 には絶えず何かが育っており、十分な栄養補給を したいというのが目標である。大豆もNZ種と枝 豆種の種が手に入り、この3年間収穫している。枝豆種は今年はじめてだが、実の数が多く沢山なっている。黒ゴマもこの1月直播きをしたが、少し芽が出てき た。古い種からなので種を上手にとって来年に期待したい。
野菜類は、今年は少し早目(9月中旬)から一時に多種類を播いて、多くを花にしてしまった。2週間ほどシフトして植えるべきだろ う。

肥料の豆知識;合計16種の元素が必要。C,H2,O2は空気中のCO2と根から取る。他の13種は土の成 分で、N2(葉肥え)、リン酸(実肥え)、カ リウム(根肥え)は大量に与える。中量与えるものは、カルシウム(根の先端の発育)、マグネシウム(葉緑素)、硫黄(蛋白質の構成元素)。微量元素(7 種)Fe、マンガン、亜鉛、銅、ホウ素、モリブデン、塩素。
尾関式浄化槽の最後のセクションは、有機物がすべて分解したあとのものであり、無機質が蓄積されている。これは食料、すなわち、 農産物を通じて与えられた ものであり、この無機成分は上記のことに微量元素を補ってくれよう。
土作りとは微生物に住処を与えてやること。
これらの農作業には、以下のような書物を参考にした。

福岡正信:‘ワラ1本の革命’、春秋社(1993年11月)
徳野雅仁:‘自然流家庭菜園のつくり方’、宝島社(1995年3月)

最近収穫した農作物
2005年7月の時点で、次の様なものを育てて収穫している。

穀類
米(北海道種、ゆきひかり)、ジャガイモ(マオリ種、赤、白)、Kumera(サツマイモ)、そば(収穫はしなかった)、大豆 (NZ種、枝豆種、10月中 旬から12月中旬の間シフトできそう)、空豆、小豆、インゲン豆(大)、スイートコーン、サトイモ、山芋

野菜
生野菜
エンダイヴ、みぶな、みずな、パクチョイ(2種)、ケール、コマツナ、ターツァイ、
レタス各種、キュウリ(大、スウヨウ、テレグラフ)、トマト(14種)、チコリ、
メロン、スイカ、ブロッコリー、カリフラワー、芽キャベツ
温野菜
スピニッチビート(日本ではあまり馴染みがない)、シルバービート(同)、ほうれん草、
ズッキーニ、キャベツ(紫、緑)、白菜(F1)、サヤエンドウ、カボチャ2種、
なす(大、長)、リーク、ねぎ、ピーマン、シシトウ、オクラ、にら
根菜
ビートルート、ラディッシュ、大根(トキナシ、ミノワセ)、かぶら、ごぼう、人参(3種)
玉ねぎ、ヤーコン、アスパラガス
いろどり野菜
ラッキョウ、HotChili(唐辛子)、春菊、パセリ2種、シソ(紫、緑)

ひょうたん、ヘチマ

果実
パッションフルーツ、グレープフルーツ、イチジク、りんご2種、レモン、キウィ
プラム2種、アプリコット、黄桃、桑の実、ブルーベリー、オリーヴ、いちご

木の実
栗、へーゼルナッツ、アーモンド、

植えているがまだ収穫できない果実
ナシ、柿、柑橘類(むしろあまり手当てをしていない)、マカデミア、サクランボ

以上のごとく相当数の種類について経験を積んでいるところである。Kikuyuとの戦いや粘土質の土壌改良 をせねばならないが、温暖な土地なので、時季を しっかりふまえて丁寧に作業すれば、すでに経験したもののみでも豊かな食糧となろう。
どれくらいの収量を目指し、いつ頃何を植えて何時頃収穫するか、丁寧な計画が必要だ。
草抜きは怠らずしなければ、回りの草の勢いはすさまじい。間断なく、無駄な空間を作らず植えることで、少しは草抜きが楽になろ う。もう少し畑が確立してか ら、福岡さんの無耕起、無肥料での自然農法は試したい。ある程度の区分が必要。ことにジャガイモなどは掘り残していたものが時とも無しに生えてくるので、 混乱を起こしてしまう。
近所のボーイスカウトの子供が売りに来た羊の糞を使っていたが、今度は自分の羊ので少し試した。(残念ながら彼は7ヶ月で FacialEczemaとい う病気にかかり、死んでしまったので続けることは出来ない。)レタスなどは2週間のシフトが一案。ピーマン類は脇芽を取ったり、最初の実はとり(育てず) 本体を育てるようにする(なすびなども)。
次に、田んぼと菜園の様子を示す。

収 穫期をむかえた田んぼの遠景
水 を落とした収穫間じかの田んぼ
クー チグラス退治のために張られたシート シー トをかけた苗床

図1 -4-1 田んぼの風景

上 の菜園1
上 の菜園2
ひょ うたん
ゴー ルデンデリシャス キ ウィフルーツ オ リーブ

図1 -4-2 菜園の風景

料理のこと
さて、自給自足では、作物を作っただけでは口には入らない。料理が次の大切な過程だ。昨年(2003年)の夏の初め、温室の池の コンクリート工事を 2,3人の若者に手伝ってもらったことがある。この時に、私の作った米を炊き、その日の野菜を集め炒めて毎日たべたが、後者は何ら準備も方式もなく、その 日の野菜を集め鍋にいれ、油と塩コショウで味付けするだけだ。この時トマトは毎日使い、ズッキーニもよく使ったが、南仏のProvince地方のラタ トゥーイに似ている所から、Kaiwakaratatouilleofthedayと名づけて楽しんだ。
まだまだ、油、塩など、ワイン作りのためのぶどうなど作っていかねばならないものがあるが、多くの若者に毎日この地に出来るもの で食事を作れたのは、大 きな自信となっている。なお、油はオリーブやゴマからとること、塩は海水をソラークッカーで煮詰めて取ること(残りの液は豆腐のにがりとして使うことを忘 れてはならない)を考えている。ナットー(玄米−最近は小豆も加えている−も同様)は血栓をきれいにする作用が あり、私のような年寄りには不可欠だ。マッシュルームや椎茸も作りたい。
調理器具は、うまく炊けるものであると共にエネルギー節約の出来るものでなければならない。真空断熱を利用した調理器具、商品名 シャトルシェフ、調理時の 熱を効率よく使う、博士鍋、手作りのフリースの断熱箱など先に述べた。
テフロン処理を避けるべく、探していたらフランス製のエナメル処理のフライパンが見つかった。重たいが料理直後当分は冷めず、味 も深くなるようだ。
拾い上げても多くの改善点がある。更なる研究が必要だ。

料理各種
これまでに学んだ各種料理を列挙すると、
天ぷら、かぶや大根の酢漬け、かぶや大根の葉っぱの塩もみ、ラッキョウ漬け、すき焼き、焼き飯、野菜炒め、 NoodleSoup、シュニッツェル(肉、 魚)、キュウリや大根葉の塩もみ、白菜の塩漬け(各葉の間に昆布を挟む。2%の塩をまぶす。陶器の容器に入れ重し)等など。
ソラーオーブンでの焼き芋
豆腐の作り方;大豆1水3一晩おく。ミキサーにかける。6.5倍の水を沸かしてそこに入れ、5,6分沸騰させる。そこを焦さない ようにあわがふきこぼれな いようにかき混ぜ、あわを取る。70度に保って、にがり(100ccの水に9gr)を入れる。
 

こ の章のまとめ

太陽から与えられる種々な形のエネルギーを集め、室内 気候の快適な住宅を、回りのもので作り、まわりを汚さず自然にとけ込み、有 機農法での自給自足。その 余暇は自分の好きなように使える。ここで始めて個人が解放され、自由になれるということだ。1日も早い完結を目指して頑張っているところである。



文献
尾関、櫻井、丹羽;“有機物をバイオガス化する浄化槽について”、日本太陽エネルギー 学会誌、Vol.25、 No.2、p53〜60(1999)。

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